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満点の星空の下で ②

「ニュージーランドは第二性への配慮が行き届いている国でね。父さんはすぐに救済措置を受けることができた。それでも運命の番を失ったオメガの心の回復は難しくて、認知症状態になってしまったんだ」  その後ニュージーランドに渡って三年半がたったある日、日本から突然客が来た。  その客は、身なりはいいのに病気みたいな疲弊した顔をしていて、最初はアルファ性だと思えなかった。それが、光成だ。  彼は何度も何度も妨害を受けながらも約十四年間、諦めずにクリフと光也の行方を探していた。また、並行してKANOUのホールディングス化を成功させ、自身は社長に就任し、社にも叶一族にもなくてはならない存在になってから、妻との離縁とクリフの再来日を認めさせたのだ。 「顔も知らなかった父に"迎えに来た"と言われたときはもちろん反発したけど、父さんがさ……運命の番の力って凄いんだ。父に会うなり驚異的な早さで回復して……求めて止まないというか」  光也は苦笑して言葉を濁したが、十四年を経て再会を果たした番同士のタガが外れた様子は千尋にも容易に想像できて、顔を赤くして黙ってうなずいた。 「それからすぐに父さんと俺は日本に戻った。もちろん一族には心から受け入れられていなかったから、本家ではなく今俺が住んでいるあの家に父と三人で住むことになってね。成沢さんに会ったのもその頃だよ。たださ、本家に認められなくても父がそれだけの用意ができる、っていうのはずっと貧乏だった俺には驚愕だったなあ。これだけ財力があるならもっと早く迎えに来いよ、とも思ったし。……あの頃は大人の事情とかわからなくて、子どもだったな」  光也がまた苦笑する。  千尋は初めて「専務」に会ったときに、なんと飄々とした人だろうと思った。だが産まれてからわずか十五年の間に、いったいどれほど悩み苦しんできたのだろう。  小さい頃、いつもどこか悲しげで気弱だった「みっくん」を、もっと抱きしめてあげたらよかった。 「で。俺も日本での生活が始まるはずだったんだけど、ニュージーランドでハイアルファの判定を受けていた俺は、すぐに祖父に呼ばれたんだ」 「ハイアルファ!? そうか、それで……」  ハイアルファとは、優秀な遺伝子を持つアルファとオメガの間にのみ産まれる、さらに優秀なアルファのことだ。第二性の発現は他の個体より遅いが、その分飛び抜けた能力を持つ特徴がある。 「祖父は、能力をKANOUのために使えと言い、未開発の地でKANOUを広げることができたら、父さんと俺を叶一族の一員として認めてやる、と言った」 「それで海外支社を回っていたんだね……」 「ああ。高校もイギリスのアルファ専用の全寮制の学校に入れられてね。俺はともかく父さんたちには幸せになってほしかったから、がむしゃらだったな」  過去の長い話を終え、光也はいったん息をついて喉に水を通す。 「それから……海外での全ての任務を果たして本社に来たら、千尋がいたんだ」  きらめく瞳が揺れたように見えた。千尋も再会の日を思い出し、胸を揺らす。

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