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見えない鎖がほどけるとき ②
「そう、そうだったのか……」
カワラヒワ がキリリコロロとさえずる見晴らし台のベンチに座り、千尋は過去を話した。
抑制剤漬けであったことや、常に監視を受けていたこと、誰も愛さず誰にも依存することがないように、と繰り返された言葉も。
「でも! でもね。部屋から出ないようにするのも、ぶつのも、僕のためだって。僕がオメガであるせいで将来に傷がつかないようにするためだって。じぃちゃんはいつも僕の身を案じてる、って言ってくれてた」
嘘の言葉ではない。千尋は今もそう信じている────信じていないと心を保っていられなかったのは自分でも気づいていない。
それでも、
「愛情っていろんな形があるね。おじいさんがいらっしゃったから、こうして千尋は立派な社会人になっているんだし、たちの悪いアルファの毒牙にかからずに生きてくることができたんだね」
と、光也が否定の言葉を使わないことに救われている。
過去の日々を否定されたらどう答えていいのかわからなかったし、昨夜の言葉通りに、光也があるがままの自分を見てくれている、という安心感を持てた。
「ただ、俺は俺の方法で千尋を愛したい。昨日、守らせてって言ったけど、それは千尋を純粋培養みたいにして悪いものから隔絶するって意味じゃない。外の世界で思うように生きる千尋の隣にいて、困ったときに力になる。千尋が泣いたり笑ったり……そうやって生きていく中で、一人じゃない、一緒に分かち合える相手がいるんだと思ってもらいたいんだ。千尋のご両親が、そうだったようにね」
「お父さんとお母さん……」
両親が揃っていたあの頃、千尋が活発で負けん気強くいられたのは、すぐに手を貸さず、いつも後ろで見守ってくれる両親の深い愛情があったからだ。
光也はそれを思い出させてくれる。あのとき、両親と一緒に微笑んでいたみっくんのことも。
「ねえ、いつかお父さんとお母さんの墓前でも誓わせてくれない? 俺が千尋を守りますって」
当時と同じ笑顔で言われて、胸がきゅうぅと締めつけられる。泣きたいときと同じように目頭が熱くなり、鼻の奥がじんとした。
胸が張り裂けそうだ。
目に涙の膜が張る感じがして、千尋は顔を地面に向けた。
光也はそれをうなずきと受け取ったのか、満足したように小さく「よし」と言って、千尋の手を握ったまま歩き出す。
それから、一緒に小さな花々を見て、せせらぎを渡り、富士山を眺めながら、お昼は静岡でジャンボエビフライを食べようかと言う光也にうなずいて別荘へ戻った。
幼い頃からの好物を忘れずにいてくれる。そんな些細なことにも心が震える。
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