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お願い、僕をいじめて ⑧

*** 「――で、連絡先を教えてもらえなかったんだよね。やっぱり僕がオメガだから、懇意になれないのかな?」  夜、千尋はいつものように光也の部屋で過ごしていた」  千尋はキングベッドのへりに腰掛け、光也が隣に座ってくれるのを待ちながら首をひねった。 「そういうことはないと断言するけど……でも、俺は千尋が彼と連絡先交換をしなくて安心したな」  就寝準備を終えた光也が来てくれた。子どもをあやすように頭をなでられ、少々むくれてしまう。 「どうして? みっくん、僕に友達ができないのを安心するなんて酷くない?」 「千尋は鈍感だね。俺も苦労するよ」  光也はため息を吐くと、千尋のうなじをに人差し指を滑らせ、かぷっと噛みついてきた。  それだけで体が疼いてきてしまう。 「……っ。どういう、意味?」 「千尋さ、俺のこれ、つけるようになってからまだ間もないのに、前より色っぽくなってるの、知ってる?」  フェロモンのスプレーボトルをベッドサイドワゴンから取り出すと、光也は千尋の顔の前で左右に振った。 「し、知らないよ……ん、あっ……」  光也はちゅっ、と音を立ててうなじを強く吸いながら、同時にボトルノズルをワンプッシュする。  ほんのりとだが、クチナシに似た甘い香りが鼻腔に絡んだ。 「このふたつで、千尋のフェロモン濃度と持続時間が上がってるんだろうね。体の中が変わってきてるから、千尋のオメガらしい美しさにも磨きがかかってるんだろう。ほら」  ベッドの中央に身体を移され、光也の足の間に挟まれる。パジャマの上を脱がされれば、下着は着ていないからすぐに肌があらわになった。 「ここも、ここも、前よりずっとつやつやしてるでしょ?」  大きな手のひらで、二の腕や腹を撫でられる。羽根で触れるような軽いタッチがじれったい。  千尋の大好きなソコにも触れてほしい。 「ここも……凄く綺麗なピンクだよ」 「ぁんっ」  期待してすでに固くなっていた胸の蕾を捻られた。両方ともそうしてもらえて、千尋はむずむずと身体をよじる。 「千尋、かわいい。コリコリしてるね、ここ」 「や、ぁ、言っちゃ、や……ん、んんっ」  二本の指でクニクニと捻られ、爪で擦られる。  千尋が鼻にかかった声を漏らすと、胸に顔を寄せ、舌の先でツン、とつつかれた。 「ど、しよ、もうこれだけで、イっちゃいそ……」  ここ最近は、治療のために射精をしない範囲で後孔を解してもらうだけの日々だった。  それでもたくさん感じてしまって、イきたいのにイってはいけないことがとても辛かった。  それに、これも射精をしないために仕方がないのだが、解してもらう以外の行為をしてもらえず、それがとても寂しかった。  ――大好きな光也に触れてほしい。触れられたい。あそこもここも。身体中を。  だから久しぶりに胸をかわいがってもらえて、千尋のペニスはもう熱を持つ芯となっている。 「胸を触られただけでイっちゃうの?  痛くもしてないのに、えっちだね」  光也はそんな千尋に微笑み、甘く低い声を耳の中に囁いてきた。たったそれだけで、熱芯の先からじわりと露が滲む。  そこがどうしても切ない。千尋は手を伸ばして自分で慰めようとした。 「駄目だよ、千尋、触っちゃ駄目」  途端に光也の手に阻まれる。  手首をしっかりと握られて、その力の強さにさえ熱芯が疼いてしまう。もう耐えられそうにない。触りたい。扱きたい。射精したい。   「ん、んっ、や、触りたいぃ」  千尋はシーツの上で身体をよじってもがいた。  腰も持ち上げてみる。そうすると、光也の割れた腹に千尋の熱芯がこすれて、とてもイイ。 「もっと、もっと……」  千尋は体を揺すった。光也が「やばいな」かなにか言った気がするが、よく聞こえない。  そのまま腹に熱芯をこすりつけていると、光也は掴んでいた千尋の手首ひらにちゅ、ちゅ、と口づけを繰り返した。 「仕方のない子だね。でも、可愛いからご褒美をあげるね」  そう言うと、光也はいったん千尋から離れた。  この部屋に入ったときに、何が入っているのだろうと思っていた箱があったのだが、それを取りにベッドを下りたようだった。  箱は六十サイズのもので、白地にピンクのリボンでハートマークが描かれている。  光也はすぐにベッドに戻ってくると、千尋の身体を起こして箱を開ける準備をした。 「俺から頑張る千尋へプレゼントだよ」 「え? 」  箱の蓋が開かれる。途端に千尋の目が輝いた。 「わ……! これ!」  入っていたのは、ピンクゴールドのチェーンがついた、ローズレッドの革の手枷(ハンドカフス)だった。

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