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専務、溺死ハラスメントはおやめください ①

 気づくと、千尋は叶家の屋敷の自分の部屋にいて、ベッドで横になっていた。  発情期は抑えられ、体が幾分か軽くなっている。  顔を動かすと、ベッドサイドの棚に成沢からのメモとフラッシュメモリがあるのを見つけた。  メモには「抑制剤は午後二十時頃までは効果があります。それまでに大事な用を済ませて戻りますので、どうかご無理はなさらず。こちらは藤村さん宛に預かったメモリです」と書いてある。  はっとして体を起こしてフラッシュメモリを掴む。  「あの人」が用意してくれたのだ。彼が何者なのか確信を得たい気持ちはあるが、今は一刻も早く画像の確認をすべきで、飛び込むように入った仕事部屋でパソコンのスイッチをつけた。   おさまりきっていない性への欲求を少しでも落ち着かせるため、光也の衣類と贈られたハンドカフス、光也の香りのフレグランスを持ち込んで。  確認し始めてから一時間。  辿り着いた画像には毎日定刻で退社する千尋と、二十時頃まで残って作業をするスタッフの姿が映っている。 「あ……」  さらに別の映像には、千尋のデスクで千尋のパソコンを操作する課長とスタッフの姿が映っていた。その部分を保存し、プリントアウトする。貴重な画像をおさめられたことに手応えを感じながら、フラッシュメモリを抜いた。  その直後、玄関のキーが開く音が耳に届いた。 (成沢さん?)  時計を見れば一九時二十分。成沢が戻るにはまだ早い。千尋はドアを開け、様子を確認しようと階段に向かった。 「……!!」  驚きのあまりに声を失くしてしまう。螺旋階段の手すりに手をかけたのは常務だ。  常務も千尋に気づき、忌々しそうに睨むと、ドカドカと音を立てて階段を上がってくる。  千尋は弾かれたように踵をかえし、仕事部屋に戻った。急いで鍵をかけようと指を伸ばすが、それよりも早くにドアが開かれ、常務が部屋に入ってきてしまった。  常務はデスクに鋭く目をやり、フラッシュメモリと、画像を印刷した用紙を確認する。 「ちっ、あいつ、余計なことを……!」  吐き捨てるように言って、そのふたつを奪い取ろうとした。 「やめてください!」  反射的に体が動き、千尋は常務に体当たりをする。  常務が「うっ」とうなって尻もちをついた隙に、必死で手を伸ばしてフラッシュメモリを取った。  常務の手の中の印刷用紙はぐしゃっとよじれたが、メモリさえ奪われなければなんとでもなる。 「っお前、どこまでも!」  常務の体がゆらりと動き、後ずさった千尋に巨体がかぶさろうとした。 

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