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専務、溺愛ハラスメントはおやめください ②

「こないでっ……!」  咄嗟にベッドの上のフレグランスを掴み、常務の顔に吹きかける。 「うわっ! なんだこれは!」  光也のハイアルファフェロモンを吸ってしまったためだろう。常務は苦しそうに喉を押さえ、うずくまった。  ──千尋、俺がいない間もローションやフレグランスを使うのを忘れないで。あれは千尋を守る香りだから、何度も使って、いつも俺を思い出して。  そうだ。出発前、光也はそう言っていた。あれは自分のフェロモンの香りが別のアルファへの威嚇になるとわかっていて、ああ言ったのかもしれない。万が一千尋が突発的な発情を起こした際、守りの力が働くように、と。 (みっくん……!)  千尋の目に、ここにはいないはずの光也の姿が浮かぶ。千尋の盾になり、常務を威嚇している光也の姿が。  ──千尋、あれを。  そうも聞こえた気がした。  千尋はイメージの中の光也にうなずき、ハンドカフスを手に取る。 「な、なにをする!」  柔らかい革の素材だが、手に枷をはめられた常務は驚いて顔の汗を増やした。  千尋はバンドを力の限り寄せて、一度も使ったことがない鍵をかける。  そこからは奇跡のように頭が回転した。  再びフレグランスを常務の顔に吹きかけ、ハンドカフスにもかけた。  苦しんで身をよじり縮める常務をまたぎ、手枷にステンレスのチェーンをかけて、クローゼットのポールに繋いだ。  これでもう、常務は好き勝手できない。 「くそっ、こんなことをしてどうなると思っているんだ!」  苦しそうに息を吐きながら、常務は千尋を睨み、うなり声を出す。  千尋もまた、全身がびっしょりするくらいに汗をかき、息が上がっていたが、怯まずに睨み返して言った。 「どうにもなりません。ここは元は社長とクリフ夫人の家で、今は専務の家です。あなたは親族とはいえ、不法侵入者です。そして、私の私物を持ち去ろうとしました。これは明らかな窃盗です。また、私がしているのは、暴力を奮おうとしたあなたに対する正当防衛です」  一気に行動したために体力を失い、息も切れる。  床に腰を落とすと、尻が濡れているのを感じた。 (発情……ぶり返してる……抑制剤の効き目が切れ……違う、フレグランスを大量に使ったからだ。こんな卑劣な奴のために、僕の大事なみっくんの香りを使うなんて……ハンドカフスも、僕のものなのに……こんな人に使わなきゃいけないなんて!)  胸が切なく、苦しくてずきずきした。涙が溢れ、嗚咽が漏れる口からは涎が垂れた。  後孔からの粘液もどんどん溢れてくる。  つきんつきんと脈打つペニスからの先走りも、同様に。 「くっ……。この香り、お前、ヒートか!」  常務は、光也の香りに威嚇されたときとは別のうなり声を上げた。腹を空かせた野獣がグルグルと喉を鳴らすような声だ。  息づかいが荒くなり、肩が大きく上下し始める。  彼は、千尋が放出する大量のフェロモンに当てられ、反応している。

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