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専務、溺愛ハラスメントはおやめください ③

 反して、常務が発する脂臭いフェロモンは千尋を不快にする。  千尋はベッドによじ登り、光也の服の袖を鼻に当てて息を吸い込んだ。 「ふぅ……ん」  愛しい香りに満たされ、鼻から甘い声が抜ける。同時に抗えない欲情に襲われ、千尋は胸をベッドにつけ、尻だけを高く上げた姿勢になってジーンズをくつろげた。  下着の中に手を滑り込ませる。すでにとろとろに濡れそぼったペニスは熱を持つ芯となっていた。  夢中でそれを上下し、腰を揺らす。だが足りず、常務が見ているというのにジーンズも下着も太ももまで下げ、後孔に触れた。  途端に香水の瓶が割れたかのように、甘いくちなしの香りのフェロモンが部屋じゅうに充満する。 「この、雌犬っ、やめろ。気が狂う……ぐうぅ」  ヒートの最盛期ともいえる状態の千尋のフェロモンが、わずかに残る常務の理性を奪い始めた。  常務は目を血走らせ、だらだらと涎を垂らし、スラックスの前立ての下がわかりやすいほどに硬直している。  千尋はどこか頭の端ではこんなことをしていては駄目だとわかっているのに、動物の雌が雄を誘うように尻を上げて、腰を揺らすのをやめられない。 「くそ、くそっっ、この淫乱オメガっ」  常務はチェーンと枷で固定された手首をぐいぐいと引っ張った。  枷は性玩具のハンドカフスで本物の枷ではない。常務が力を入れるたびに革に亀裂が入り、鍵部分の金具が歪む。 「……ぶち壊してやる」    ……ぶつっ。  とうとうハンドカフスは無残に敗れ、常務の体は自由を取り戻した。ふらつきながらも腹を空かせたハイエナのように、じりじりと千尋に近づいてくる。 「あ……や……いや……」  逃げるべきなのに、身体が動かない。千尋は光也の服を握って震えながら、常務の手が伸びてくるのを待つだけになってしまった。 「やだ、やだ……」 「上の口はそう言ってるが、下の口は俺をほしがっている。いいだろう、たっぷりの子種をお前に注ぎ込んでややるさ!」 (ちがう……それをいってほしいのは……)  常務の手がとうとう千尋の腰を掴み、自身のスラックスを下ろした。蒸気を伴うほどに興奮したアルファの杭が、今、千尋に刺さろうとしていた。

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