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第7話

 5杯ほど飲んだところで見かねたしょうちゃんからストップされ、お会計をして店を出た。少しだけ頭がふわふわするが、思考はまともだし足取りもしっかりしている。酔っ払って全部うやむやにしたかったが、世の中そううまくはいかないようだ。  しょうちゃんの部屋へ向かう途中、ドラッグストアに立ち寄った。トイレを借りて戻る間にしょうちゃんは買い物を済ませており、外に出るなりレジ袋の中からスポーツドリンクを手渡された。 「飲んで」  散々飲んでさっきトイレで出したばかりだったが、言われた通り蓋を開けて喉に流し込んだ。3分の1ほど飲んだところで蓋を閉めようとすると、しょうちゃんがちょうだい、と言うので蓋は閉めずに手渡した。  飲みかけのペットボトルに、しょうちゃんはお構いなしに口を付ける。これまでも回し飲みや食べ物のシェアをしてきたことはあったが、間接キスだよな、と今更意識する。  ぼんやりと喉仏が上下する様を凝視した。口元はなんだかこっ恥ずかしくて直視できなかった。  街灯の少ない夜道を、しょうちゃんが先頭を歩き、その半歩後ろを付いていった。なんとなくその距離感に居心地の悪さを感じるが、なぜそう思うのかがわからない。今まで横並びで歩いていたのだろうか、それとも俺が前を歩いていたのだろうか。  違和感の正体に答えが出せないまま、しょうちゃんの部屋の前まで来てしまった。  しょうちゃんが鍵を開けて先に中に入る。続いて玄関に足を踏み入れると、しょうちゃんがすぐ目の前に立ちはだかっていた。しょうちゃんの目を見て、これはまずいなと直感した。玄関のドアが閉まるなり、顎を掴まれてキスをされた。  反射的にキツく目を閉じ、歯を食いしばる。引き結んでいる唇にしょうちゃんの唇が当てられ、ちゅっと音を立てて吸われる。顔に当たるしょうちゃんの生温かい息はアルコールの臭いがして眉を顰めた。 「明生くん、鍵閉めて」  半畳ほどの玄関に大の大人が二人。狭くて自由に身動きができない。部屋は暗く、向こうの部屋の窓から差し込む月明かりや街灯の光で辛うじてしょうちゃんの輪郭が分かる程度だ。そろそろと手を伸ばし、手探りでつまみを探す。  つまみを探り当て、右に倒そうとした時だ。 「これが最後だよ。よく考えて」  しょうちゃんが耳元で呟き、そのまま耳たぶを舐めた。ぞぞぞ、と一瞬で首筋に鳥肌が立つ。反射的に身を引くと、ガン、と足がドアにぶつかって大きな音を立てた。ドアに身体を押しつけられ、唇を舐められる。 「明生くん触って。俺もうこんなになってる」  鍵を触るのと反対の手を取られ、しょうちゃんの股間に押し当てられた。そこは固くてぐにぐにしていた。  ハァハァと息を乱しながら、スラックス越しに俺の手を使ってしょうちゃんが自慰をしている。感触が気持ち悪いし、自身が性対象になっているところをまざまざと見せつけられて嫌悪感が増していく。  気分が悪い。今すぐドアを開けてこの場から逃げたい。そうすれば、しょうちゃんは追ってこないだろうか。  しょうちゃんは、わざと俺を怖がらせようとしているのか。  そう思い至ると、恐怖心や嫌悪感が消えた。つまみを右にひねると、カシャンと金属の音が響いた。しょうちゃんが俺の手を離し、わずかに後退りした。  暗がりで表情は見えなかったが、こちらの出方をうかがっているのだと思う。身動きできず、少しの間暗闇で見つめ合った。  口火を切ったのはしょうちゃんだった。 「ほんとうに、それでいいの?」  しょうちゃんの声は震えていた。  それを聞いた途端、かくんと足から力が抜けて玄関に座り込んだ。やっぱり、しょうちゃんも俺と一緒で怖かったんだ。 「明生くん!?」  しょうちゃんが玄関の照明を付け、視界が一気に明るくなる。目が眩んで下を向くが、しょうちゃんが俺の頬を両手で挟んで上を向かせた。 「顔真っ赤だけど、大丈夫?」  逆光で影になっていたのと、目が明るさに慣れていないのでしょうちゃんの表情は分からなかったが、声で心配そうな顔をしているのだろうと思う。  言われなくても、顔が赤いだろうというのは自分でも分かった。顔が熱く、しょうちゃんの手が冷たくて気持ちよかった。 「大丈夫、一気に酔いが回ったみたい」 「とりあえずベッド行こう」  しょうちゃんが俺の腕を取り、自分の肩に掛けた。無理矢理身体を開かされ、急激に胃の中のものがせり上がってきてとっさに口を押さえた。 「ごめ、吐く」 「は?」  ヴッと喉から声を絞り出し、全身に力を込める。しょうちゃんがとっさに俺の首根っこを掴み、玄関から数歩のシンクまで引っ張った。土足で廊下を踏み、シンクに両手をついて胃の中のものを吐き出す。俺がシンクで吐く横で、しょうちゃんが大きな溜息をついた。 「ごめん……」 「いいよ。動けそうなら着替えてもう寝な」  俯く俺の背中をしょうちゃんが擦る。そういえば学生の頃は加減を知らずに馬鹿みたいに飲んでは側溝に吐いてしょうちゃんに何度も迷惑をかけていた。あの頃から何も進歩していない。  ゲロのおかげでセックスするしないがうやむやになったので、まぁよしとしよう。  その場に座り込み、シンク下の戸に凭れて放心していると、上からぬっと水道水が注がれたマグカップが現れた。頭上ではしょうちゃんが俺の吐瀉物を淡々と処理している。  のろのろと立ち上がると、洗面台へ行ってもらった水で口を濯ぎ、残りの水は飲み干した。しょうちゃんの機転のおかげでネクタイを少々汚した程度で済んだ。  酒とたばこの臭いが気になるが、一刻も早く横になりたかった。ネクタイを手洗いし、歯を磨いて着替えを済ませると、さっさと布団を敷いて横になった。  早く眠ってしまいたいのに、なかなか眠りにつくことができない。眠れないことにイライラしながら、俺はこの先しょうちゃんとセックスできるのかと悶々とする。  寝たふりをしながら、しょうちゃんの立てる物音が気になって仕方がなかった。しょうちゃんが甲斐甲斐しく頭上に袋とペットボトルを用意してくれた。

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