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第14話
DomとSubの関係で行き着く先はやりがい搾取の強制労働かセックスと相場が決まっている。俺としょうちゃんは後者であった。ただそれだけだ。
自分がSubだとわかった時は絶望したものだが、長い目で世論やニュース、歴史を紐解いて見ていくと、いつの間にかそういうものなんだと受け入れていた。別に悲観しているわけではない。いじめや差別や事件に遭ったことはないし、両親はそれなりに理解がある。しょうちゃんも冬也もいたし、俺は恵まれている。
もっと自分を大事にしろと、Subの人権運動を行っている人もいる。そういう奴らはほとんどNormalやDomで、生まれつき縦社会の最下層として生きてきたSubの気持ちなんてつゆほども理解していない。自分より下の人間を哀れんで悦に入っているだけだ。時間をかけて受け入れてきたSubの生き方を否定し、踏みにじっていることにも気付かずに。
尾てい骨あたりに冷たいものが落ちてきて、ビクッと身体が反応した。しょうちゃんの指が割れ目を探り、穴を見つけて侵入してくる。反射的に力を込めると、ぬるっと一気に深くまで入ってきた。
「ウッ」
気持ち悪い。無意識に逃げようともがいていた。
「動くな。いい子だから」
まるで子供を宥めるような言い方。しょうちゃんの言葉ひとつで頭がぼうっとする。
くちゅくちゅと音を立てながら、行ったり来たり指が単調な動きを繰り返す。そのたびにぞわぞわと鳥肌が立つ。酷く不快で、排泄感を刺激される。声を殺し、自分の腕に爪を立てて堪えた。擦られている部分が熱い。後で知ったことだが、しょうちゃんが使用していたのは温感ジェルだった。
「ウ、ん゛」
指が抜かれたと思ったら、質量が増して再び挿ってきた。指が2本に増やされた。
「痛い?」
「だいじょぶ」
「キツかったら言って」
指が増えたことによって圧迫感があり、異物感も吐き気も増した。だが、それだけではない得体の知れない感覚があった。腹の奥が疼く。そこには指が到達せず、もどかしい感覚が続いている。その疼きは、最初は気のせいだと思っていたが、だんだん無視できないほど大きくなっていった。
縋るように布団を掴み、ぐしゃっと手繰り寄せる。気持ちいいのか、それとも気持ち悪いのか分からない。
腰を浮かせ、腕を入れるスペースを作った。性器が緩く立ち上がり、軽く布団を押していた。
手が性器に到達するより早く、しょうちゃんが俺の腰の下に腕を入れぐっと上に引っ張り上げる。足の間に膝を入れられ、足を開かされた。あっという間に発情期の雌猫みたいな姿勢をとらされ、状況を飲み込めずに一瞬ぽかんとする。
「いっ、いや……」
情けない声を上げ、身体を捩る。びくともしなかった。
「動くな」
静かに命じられ、ピタリと動きを止めた。背後にしょうちゃんの体温を感じる。肩で息を吐きながらぎゅっと目を閉じた。怖い。自分の覚悟なんて、取るに足らないものであったと思い知らされた。
するりと性器を撫でられて、ビクッと身体が反応する。挿ったままのしょうちゃんの指をぎゅっと締め付けた。
「自分で触って」
シーツを握っていた手を離し、性器に添える。ゆっくり上下に擦ると、しょうちゃんが俺の服をべろっと捲り背骨に口づけた。
「いい子」
勃っていることがバレてたのが恥ずかしい。火が出そうなくらい顔が熱く、羞恥で視界が滲んだ。さっさと終わらせてしまおう。擦る手を早めた。
後ろに納まっていた指が、再び動き出す。抽挿だけの単調な動きではなく、左右に押し広げようとしたり、まるで腸壁を撫でるような動きをする。
「指抜いて」
半泣きで訴えると、上手にイけたらね、と肩甲骨のあたりにキスをされた。意地が悪い。しょうちゃんのことを嫌いになりそうだ。
何が何でも早く終わらせようと思った。しょうちゃんの指を締め付けながら一心不乱に前を扱いた。
「声聞かせて」
自慰をする時、声なんて出さない。AVの見過ぎだ。
「……ん」
「かわいい」
ぽつりとしょうちゃんが呟く。しょうちゃんが覆い被さってきて、うなじに口づけながら胸の先端を弄る。相変わらず指は挿れたままだ。
「あっ、はぁ、はぁ」
身体がおかしい。熱に浮かされたように頭がぼんやりする。原因は分かっている。ただ一言、しょうちゃんが俺をかわいいと言った。
我ながら単純だと思う。さっきまでは調子に乗りやがってと思っていたのに、今ではもっとかわいいと言って欲しくてたまらない。
しょうちゃんのために喘いでいるわけではないが、欲しい言葉をくれないしょうちゃんに、聞いているのかと怒鳴りたくなる。
うなじへのキスも、胸の愛撫も、背中に乗るしょうちゃんの重みも、何もかもが物足りない。
骨を砕く勢いで咬んで欲しい。もっと指先に力を込めて千切れるまで詰って欲しい。上から押し潰して、いっそこのまま殺して欲しい。しょうちゃんになら殺されたい。
これがSubの性なのか。頭の中がしょうちゃんでいっぱいだった。
しょうちゃんの布団に精子をぶちまけると、すぅっと熱が下がっていった。これでやっと終わりだ。約束通り、体内から異物感が排除された。
ぐいっと身体を引き倒され、後ろからしょうちゃんに力強く抱きしめられる。抗う気力もなく、しょうちゃんの胸にぐったりと身体を預けた。すぐに眠気がやってきて、とろとろと目を閉じる。心地好い疲労感と、それ以上の多幸感がある。
それにしても、さっきの今までに感じたことのない欲求は、一体なんだったのだろう。
ブーと下の方から音がしてしょうちゃんの腕の力が緩んだ。すぐに身体が離れて、床に落ちている衣服を拾う。しょうちゃんの身体が離れることに、一抹の寂しさを自覚する。
音の正体は、俺のスマホだった。しょうちゃんが俺のズボンからスマホを抜いて俺に渡す。点灯するディスプレイには、冬也からのメッセージ通知が表示されていた。メッセージを確認する間、しょうちゃんはズボンを履き直していた。
あの後大丈夫だった?
冬也らしい素っ気ないメッセージ。大丈夫と言えば大丈夫だし、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃなかった気がする。
返信に頭を悩ませていると、しょうちゃんが服を拾いながら冬也? と聞いてきた。頷くと、ごめんって言っておいて、と伝言して部屋を出て行った。すっかり通常モードなのがしょうちゃんらしい。
冬也には、しょうちゃんがごめんって言ってた、とだけ返信した。
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