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第15話

 ドライヤーの後、化粧水を染み込ませたコットンで顔をはたかれ、乳液を塗られる。ここまではルーチンで、その後はしょうちゃんの気分次第。終わり、と告げられてそのまま解放されるときもあるし、股座に呼ばれて、ただぬいぐるみのように抱きしめられながらテレビを見ているときもある。  しょうちゃんがソファに座って雑にドライヤーを当てている様子を、床に胡座をかいてぼんやりと見上げる。終わりと告げられなかったので、今日は何かあるのだろう。 「全部脱いで膝の上来て」  ドライヤーの電源をオフするのと同時にしょうちゃんが不遜に言う。今日はそういう気分らしい。  言いつけ通り、しょうちゃんの目の前で裸になる。両腕を引っ張られるままにソファに膝を乗せ、首に腕を絡めて俺からキスをした。  拒むわけでもないが、受け入れるでもない。腰を抱いてはくれたが、しょうちゃんは口を開けなかった。 「手出して」  唇を離したとき、息がかかる距離でしょうちゃんが言った。  理由も分からずに両手を上にして見せると、ぱかっとしょうちゃんがローションの蓋を開け、俺の右手にたっぷりと垂らした。 「後ろ、自分で準備して」 「えぇ……」  しょうちゃんは立て膝になっている俺の身体を抱き寄せ、胸の尖りに舌を這わせた。ゾクッと鳥肌が立つ。ぺろっと舐めた後、ちゅ、と音を立てて吸い付く。反対側は、しょうちゃんの手が執拗に捏ね回している。 「うっ、うぅん」  ゾクゾクと断続的に背筋に悪寒のような物が走る。胸を弄られているだけで下肢にぶら下がっている物が重力に逆らって頭をもたげる。  男なので母乳は出ない。ただそこにあるだけで意識したことがなかった胸のふたつの粒は、しょうちゃんに弄られるために存在していたのではないかと、そんな馬鹿なことを考える。  最初のうちは触られてもくすぐったいだけだった。執拗に何度も弄られるうちに、性感帯へと作り替えられてしまった。  腰がじんと疼いて膝立ちしているのが辛くなってくる。不意にしょうちゃんが顔を上げ、至近距離で視線がぶつかった。だがすぐに逸らされ、思わせぶりにかぱっと口を開けた。反射で腰を引いたが、たかが知れている。 「痛っ!」  胸を咬まれ、びくっと腰が跳ねた。適度に加減されていたので実際にはそこまで痛くはない。その代わりに下っ腹あたりがじんじんする。  早くしろと、しょうちゃんなりの催促だ。仕方なく背後に腕を回し、排泄器官にローションが纏わり付いた指を挿れる。 「ん……」  まだ中指の第一関節を挿れただけなのに、すでに異物感で気持ち悪くて指を抜きたくなる。本能に逆らって第一関節まで押し込んだ。  無心で指の抜き差しを繰り返し、ある程度スムーズに動くようになったら指を2本に追加する。気を抜いたら吐きそうなくらい気持ち悪いし、いつまでも苦しい。永遠に慣れる気がしない。  いつの間にかしょうちゃんの愛撫は止まっていて、緩く腰を抱いて俺の顔を見つめていた。「ちょっと、見ないでくれる」 「今、指は何本挿ってる?」  しょうちゃんが俺の右手に手を重ねる。 「言って」  Subの本能でビクリと身体が反応する。応えるために停止していた思考が働きだし、ついでにふと今の自分の姿を客観視した。  俺だけが裸で、しょうちゃんに跨がって、抱かれる準備をしている。途端に羞恥心が芽生え、他に誰もいないのにしょうちゃんにだけ聞こえる声量で2本、と答えた。  ぐいっと頭を下に押さえつけられ、唇がしょうちゃんのと重なった。これはご褒美だ。すぐに頭がぼうっとしてくる。  見た目よりも柔らかい感触を味わっていると、唇を割ってぬめった熱い舌が出てくる。本能で口を開き、舌を絡ませる。  自分の指でいっぱいになっている穴に別のものが触れ、びくりと身体を震わせる。 「しょうちゃ、ん!」  言葉は、キスで封じられた。  探るように穴の周りを刺激され、少々強引にしょうちゃんの指が挿ってきた。  耐え難い異物感に、反射的に下腹部に力が入る。そのせいで侵入物を締め付けてしまい、余計に異物を意識させられることになった。  指を抜きたいが、3本入ったままでは窮屈で自由に動かすことができない。身体ごと逃げたいが、しょうちゃんに頭を押さえられてうまく身動きができない。何一つ思い通りにならなくてパニックに陥りかける。  なんとか自分の指を抜いて、べとべとの手のまましょうちゃんにしがみつく。今俺の尻の中ではしょうちゃんの指が蠢いている。自分の指はただただ異物感で不快だったのに、不思議としょうちゃんの指は受け入れている。それどころか、前は硬さを保ったまま上を向いている。 「明生くん、俺の触って」  耳元でいきなり喋られてビクッと肩が跳ねた。  下に視線を落とすと、しょうちゃんのモノがスウェットの中で窮屈そうにしていた。  なぞるように撫で付けると、ウッとしょうちゃんが小さく呻き声を漏らして身体を揺すった。男としてその反応に気を良くする。一方的に好き勝手されるだけでは男が廃る。  ズボンを下着ごとずらして性器を露出させ、上下に扱いた。しょうちゃんの吐息に喘ぎ声が混じり、息が徐々に荒くなる。  抵抗なく性器を握れるくらいには、しょうちゃんとそういうことをしている。  初経験を済ませたのは、しょうちゃんに初めて指を挿れられた日だった。指を2本挿れたまま自慰をさせられ、一旦は許されたかと思ったが、その後夕飯を摂って風呂に入って、ドライヤーで髪を乾かされた後寝室へ連れて行かれた。  尻の穴に性器を挿れるなんて、想像しただけで痛そうだし嫌悪感があった。実際にしてみると、痛みは想像以上だったが意外とできたな、という感想だった。  しょうちゃんが望むならできなくはないが、進んでやりたいとは思わない。お世辞でも気持ちよかったとは言えない。  こんなことを言われたところで嬉しくないだろう。初経験の感想は墓場まで持って行くことにする。  幸い、しょうちゃんは感想を求めるようなロマンチストではない。ヤった後、急速に冷めるようでいつも以上にサバサバしている。よほど口が滑らない限り失言することはないだろう。そういう点でも、俺たちは相性がいいのかもしれない。  ナカから指が抜かれ、圧迫感がなくなる。 「明生くん、ゴムつけて」  しょうちゃんが箱からひとつ袋を出し俺に手渡す。袋を破り、中身を勃たせたしょうちゃんの性器に被せていく。仕上げに、しょうちゃんが俺の尻に使ったローションをゴムの上から垂らして塗り広げた。 「上に乗って自分で挿れて」  挿れやすいように身体を前にずらし、背中にクッションを挟んでしょうちゃんが言う。  覚悟を決めて充分に解された穴に屹立をあてがい、ゆっくりと腰を下ろしていく。 「うぁ、はぁ……」  潤滑剤と充分に拡張されたおかげで痛みはないが、指とは比べものにならないくらい圧迫感が凄まじい。そこが侵入を拒み、無意識のうちに締め付ける。排泄感と快楽がごちゃごちゃになり、動けなくなる。 「おすわり」  頭が命令を理解する前に、かくっと膝から力が抜けた。あとは自重で、尻がしょうちゃんの腰の上に着地した。 「ああ゛あ!!」  とっさにしょうちゃんの首を掻き抱き、耳元で叫び声を上げた。  腰を捩るが、しょうちゃんのモノは完全に体内に納まっている。そんな動きで抜けるものではない。俺が動くと連動するようにしょうちゃんの身体がビクンと反応するので、しょうちゃんも辛いのだとわかる。 「よしよし、いい子いい子」  荒く息を吐きながら、動くのを我慢してしょうちゃんにしがみつく。腹の圧迫感は苦しいし、不快感がある。尻の穴が目一杯に広がっていて、ちょっとでも動くと排泄欲を搔き立てられる。腹の中が熱くて、肛門周りがぬるぬるしているのが気持ち悪い。  宥めるようにしょうちゃんが俺の身体を抱きしめて頭を撫でた。だんだん呼吸が落ち着いてきて、腹の中の感覚にも身体が馴染んでいく。  ふと嫌な予感がして、ソロソロとしょうちゃんと距離を取る。しょうちゃんの服に、べったりと白い液体が飛んでいた。 「うわ、ごめん」  謝られて、初めてしょうちゃんもスウェットに目を落とした。 「いいよ。ていうか、挿れただけでイけたんだ」  カッと顔が熱くなる。その時は、それどころではなくて気付かなかったが、後ろの刺激だけで達した。射精は済んでいるはずなのに、直接的な刺激がなかったせいか不完全燃焼でまだ緩く反応を示している。  しょうちゃんが汚れた上着を脱いでソファの後ろに放った。座面に転がっていたローションの蓋を開け、俺の性器の上に垂らす。その刺激と、これから与えられるであろう快楽を予見して、期待でぐっと角度が増した。 「しょうちゃん」  期待と気恥ずかしさで縋るように呼んだ。いつの日からかほぼ毎日一緒に風呂に入るので、幼馴染みの裸は見慣れている。しょうちゃんがスウェットを脱いだせいでどこに掴まっていいのかわからず、止まり木を見失ったような心細さがある。  首に手が回され、ぐいっと引き寄せられた。斜め前に引き倒され、とっさにソファの背もたれとしょうちゃんの腹に手を付いた。上半身の角度が変わったことで、腹の中のモノが擦れ、排泄感が搔き立てられる。暖房で部屋は充分暖かいのに、ぞわっと背筋に悪寒が走る。  しょうちゃんが、俺の唇を吸いながらローションを纏った性器を扱いた。 「待って」  しょうちゃんの肩に両手を置き、腕を突っ張らせる。上半身が少し動く度に、腹の中のモノを意識してしまう。 「今触られるとヤバい」  しょうちゃんの冷たい目を見て、間違えたと思った。中断させられたことが気に入らなかったらしく、聞き入れてもらえなかった。 「両手を後ろで組んで」  肩から手を離し、言われた通り背後に回した。これでもう、解除されるまで動かすことができない。実際に縛られたわけではないし、頭ではいつだって自分の意思で動けることは分かっている。だが、Subの本能で逆らいたくないと思っている。  いっそ、本当に縄をかけてくれればいいのに。 「いい子だ」  性器を握ったまま、するりとしょうちゃんが俺の首をなぞった。絞められるとは思っていないが、身体の自由が効かない今、急所に触れられると本能的に身構えてしまう。  試されてるんだろうなと思う時がある。  例えば、今みたいに逃げられる状況でどこまで従順でいるか、みたいな。それがSubとしてなのか、それとも別の目的があるのかまではわからない。試されているというのも気のせいかもしれない。  それが酷くもどかしい。煮るなり焼くなり、しょうちゃんの好きなようにすればいい。そうすれば、何も考えずにただ身を委ねるだけだ。選択肢を間違えることに怯える必要もなくなる。  遠回しに触らないでと言ったのに、たっぷり視姦されながら身体中を撫で回された。そのくせ、性器を握った手はピクリとも動かさない。  整えたはずの呼吸が、また短く荒くなる。ずっと下っ腹と足に力が入っていて、内側で筋肉がビクビクと細かく痙攣している。明日はきっと筋肉痛で動けないだろう。 「腰浮いてきてる」  俺の腹を撫でながらしょうちゃんが言う。 「どうしてほしい?」  そう言うしょうちゃんも限界なのだろう。眉間に皺を寄せ、余裕のない顔をしている。俺も似たような顔をしているのかもしれない。 「動いて」  尻を左右に大きく広げられ、性急な下からの突き上げが始まる。一瞬呼吸が止まった。 「うぁ、アッ、アッ、あ」  後ろに組んだ手を強く握りしめ背中を反らせる。ビクビクと腰が跳ねるが、しょうちゃんに抑え付けられて快楽の逃がし場所がない。目の前がチカチカする。ひっきりなしに、無様に喘がされた。  しょうちゃんが動きを止める頃には、お互いに疲れ切ってぐったりしていた。 「楽にしていいよ」  ようやくお許しが出たので腕を解いてだらっと前に垂らした。余計な力が入っていたようで肩が痛い。  しょうちゃんが俺の身体を横向きに座面に倒し、ずるっと自身を引き抜いた。ようやく終わったと思ったら、しょうちゃんが背もたれと俺の身体の狭い隙間に無理矢理膝をねじ込んできた。  しょうちゃんの身体が影を作る。切羽詰まった顔を寄せられ、腕を首に回してキスを受け入れた。足を開かされ、性器を扱かれる。今度は止めなかった。 「うっ、うん、あっ、あ」  俺がイきそびれたことに気付いて、わざわざ手を貸してくれた。律儀なところがしょうちゃんらしい。 「イっていいよ」 「あっ……く」  耳元で言われ、しょうちゃんの首にしがみついたまますぐに達した。  お疲れ様と、俺の髪を撫でてしょうちゃんが離れていく。だる重い身体を動かせずにソファの上で仰向けになり、電気の眩しさに目を閉じて腕で蓋をする。下半身を中心に、ソファも汗やローションでドロドロだ。きっと翌朝、起きていくと何事もなかったかのように綺麗になっているのだろう。  命令に従っているだけなのに、逆に善くしてもらっている気がする。 「お茶でいい?」  腕を少しずらし目を開けると、コップを両手に持ったしょうちゃんが近くに立っていた。ありがとうと言いながら、腕の力を使って身体を起こした。

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