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第14話

「お待たせ。お腹空いただろ?」 「まぁ、な」  そういうと、ユイトの腹がぐぅと音を立てて鳴った。それが恥ずかしくて、ユイトは顔を赤らめた。どうやら、匂いに触発されて鳴ったらしい。 「昼……軽めにしたから……」  思わず言い訳がましいことを言ってしまう。 「あはは。俺も腹減って鳴りそうだよ。じゃ、今よそうから」  奏一はユイトの分からよそってくれた。本当に、面倒見が良くてオカンのようだ。けれど、こうして面倒を見られてしまうことが、ユイトにとっては心地よささえ感じられる。自分はこんなに甘えん坊だったろうかと思う。それに、二十一歳になったというのに、子供扱いされているようにも感じるが、それでも奏一にこうして面倒を見られることは嫌ではなかった。 「じゃ、食べようか」  そう言って、奏一はユイトが買ってきたビールを片手に言う。ユイトの方を先に飲もうと奏一が提案してきたのだ。 それに倣いユイトもビールを持つと、奏一は「乾杯」と言って缶同士をぶつけてきた。 「乾杯」  ユイトはビールを喉に流し込んだ。 このビールは、ユイトがいつも飲んでいる種類だが、喉越しがさっぱりとしていて気に入っている。 「いただきます」  真面目に一言呟き、ユイトはシチューを口に運ぶ。 「美味い」  素直にその言葉が口から飛び出した。  匂いからして美味しそうなのはわかっていたが、やはり絶品だった。懐かしさを感じるのは、母の作るシチューと似ているからだろうか。 「本当?口に合ったんなら良かったよ」  にっこりと笑い、奏一もシチューに口を付けた。 「……でも、さ……」 「何?」 「男二人でシチューって……なんかな……」 「えー?一緒に飯食おうって誘ったの俺だし、別にいいんじゃない? でも、もしかして後悔してる?今日のこと」  淋しげに奏一が聞いてきた。  せっかく食べ始めたところだったのに、余計な事を言ったかと、ユイトは内心反省した。 「悪い、余計なこと言った。あんたの美味いシチュー食えて嬉しいよ」  そう言って掻き込む勢いでシチューを食べた。  ユイトはマザコンというわけではないが、シチューの味で母親をちょっと思い出したことは言わないでおいた。 「あんたさ、俺としゃべっててつまんなくないの?俺といて楽しい?」  美味しいシチューを堪能した後、奏一が買い置きしていたビールを飲みながらユイトが切りだした。 素のユイトはしゃべりが上手いわけでもなく、いたってテンションが低めなので、自分でも一緒にいる相手がつまらないのではないかと気になっていたのだ。 「君といるのは楽しいよ。俺はね」 「本当かよ」  ユイトは苦笑した。本心で奏一がそう言っているのなら、どうしてそうなるのかまるでわからない。 「君を見てると、いろいろ構いたくなるんだ。 口数少ないしクールだけど、なんかこう、淋しそうに感じたんだよ。まぁ、余計なお世話かもしれないけどね」  本当は、ユイト自身もホストを始めてから新たな恋がしたいと思っていた。  しかし、その対象になるのは男性だし、傷を作った過去もあることから、ゲイの相手を探すこともできずにいたのだ。そういうこともあり、淋しさを感じていたのは本当かもしれない。

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