次の週の土曜日、ユイトは奏一と朝の六時頃に待ち合わせていた。とは言っても、奏一がユイトの家まで車で迎えに来てくれることになっている。普段はあまり運転をしないのだが、実家に帰る時や遠出する際には運転をすることもあるのだと、奏一は教えてくれた。 　店が休みだった昨夜は、早く寝ようと思うと余計に寝られなくなってしまい、グズグズとしていたら寝たのは日を跨いでからになってしまった。 　今日のユイトの格好は、釣りに行くということで取り敢えずアウトドアに適したものを選んだ。釣りに誘われてから、アウトドアに向いているようなトップスを持っていないことに気付き、昨日急遽買いにも出た。 　買ったのは赤のマウンテンパーカーだ。細身のデザインでフードも付いている。ボトムはちょっとダメージ加工の施されたデニム。こちらも細身のアイテムだ。ユイトのスレンダーなスタイルを際立たせていて、とても合っている。 足元の靴をどうしようか迷ったが、防水になっていて底も滑らないというハイカットの黒いスニーカーがあったので、購入した。紐がカラフルであった点、割とおしゃれな感じのデザインだという点、そして雨の日などに履けるかもしれないと思ったことも購入する決め手になった。 　ユイトはこうして準備をすることが楽しく思えた。 何とか寝坊せずに起きる事は起きたのだが、眠過ぎる。 　　朝ごはんは途中でコンビニに寄って調達し、着いたら現地でさらっと食べようということになっていた。 眠気を堪えながら顔を洗い、着替えをすませると約束である六時の五分前に家の前に着いたと奏一からメールが届いた。家の場所は、車にナビが付いているので住所だけ教えておいたのだ。本来どちらかと言うと警戒心が強いユイトだが、出会って間もない奏一に家の場所を教えたのは、珍しいことだ。それは、奏一が警戒心を抱かせないキャラクターのようだからだろうか。 　二階の自分の部屋を出て階段を下りていくと、白い車が停まっていた。そして、助手席側のパワーウィンドウが下げられ、声が聞こえてきた。奏一の声だった。 「おはよう。朝早くからありがとう」 　奏一は朝っぱらから爽やかな笑顔を向けてきた。 「ああ……おはよ…あんたは眠くねぇの？」 「あはは。君と釣りに行くと思ったら楽しみで目が冴えちゃってるよ。さ、乗って？」 　そう促されたので、ユイトは助手席のドアを開けた。 「おじゃま……します……」 　緊張しつつ、身を助手席のシートにすべり込ませた。実は、こうして誰かとドライブがてら出掛けることは家族と以外初めてかもしれない。そんなことをふと思い出す。 「じゃ、出発しようか」 　そう言って奏一は車を発進させたが、ほどなくしてユイトは睡魔に打ち勝つことができずに眠りに落ちてしまった。 「ユイト君？コンビニ着いたよ。朝飯買わない？」 　ユイトは奏一に揺すられ起こされた。 「あ……悪い……寝ちまって……」 　とても気まずい。そういえば、店の客が『彼氏とのドライブ中に寝てしまい、反省している』と言っていたことがあった。助手席で寝てしまうことはあまりよろしくないことのようだと、その時ユイトも勉強になったのだが、まさか自分がしてしまうとは思わなかった。 「いいよ、別に。早起きするのは大変だよね。 実は俺も、朝は強い方じゃないから」 　奏一はいつもの優しい笑みをくれた。