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第18話
着いたコンビニは、奏一の実家の近くの店舗だった。朝食を買い込み、店を出ようとした時、店内に一人の男が入ってきた。ユイト達と同年代くらいだろうか。ラフな格好をしている、少しワイルドな感じの男だった。
すると、その男はユイト達を目に留めると声をかけてきた。
「あれ、久保田か?」
やや驚き、ユイトは傍らにいる奏一の方を見た。すると、奏一は一瞬目を見開き、直ぐに笑みを作った。それを見て、ユイトは目の前の男のことを奏一が知っていて、懐かしんでいるようだと気付いた。
「あ、もしかして霧島?」
「おー、久しぶりだな。こんな朝っぱらからどうしたんだよ。こっちに帰ってきてたのか」
「あぁ、うん。釣りしに来たんだ」
そう言うと、霧島と呼ばれた男はユイトの方に目を向けた。
「そうなんだ。で、隣は誰?」
見ず知らずのユイトを怪訝そうに一瞥した後に、霧島は奏一に問いかけた。
「あぁ。新しくできた友達だよ」
「ふーん?俺はこれから仕事だよ。朝飯買って行こうかと思ってさ。あ、やべ……遅れるわ。じゃ、今度戻ってきたら飲もうぜ!」
そう言って、霧島は店の奥側にあるおにぎりや弁当のあるスペースへと慌ただしく向かっていった。
ユイトにとってはあっという間の出来事だった。ただ、霧島が奏一と一体どういった関係なのかが気になってしまった。同級生かなにかだろうか。
「今のは?」
「あ、うん。高校の頃の同級生」
「なるほどな」
自分の考えが間違っていなかったのだとわかり、妙に納得した。
「そろそろ俺達も行こうか」
そう奏一に促され、ユイト達は店を出てコンビニから車で五分ほどの場所にある奏一の実家に立ち寄った。朝早くに寄ることは事前に親には知らせていたらしい。
ユイトは本音では車で待っていたかったのだが、顔を出してきた母親に一応挨拶をした。そして、物置きから釣竿を借りてすぐにまた出発した。
釣りをする湖にはそれから十五分ほどで到着し、そこで先程購入したおにぎりなどを食べることにした。駐車できる場所にはちらほらと釣り人のものらしい車が停まっている。
「なぁ……さっきの……同級生……」
「あぁ、霧島?部活も一緒だったから、いつもつるんでたんだよ」
「え、あんた部活やってたの?」
偏見かもしれないが、奏一が運動系の部活に入っていたようには思えないと、ユイトは思った。まぁ、部活といっても文化部もあるからわからないのだが。
「うん。野球部に入ってたんだ。中学から続けててね。俺、実はピッチャーだったんだ。
それで、あいつはキャッチャーで、バッテリー組んでたんだよ」
野球とは意外だった。ピッチャーとキャッチャーは信頼関係が重要だろうし、霧島と奏一も信頼し合っていたということだろうか。
それに、霧島はユイトの知らない、高校時代の奏一を知っているのだ。そのことに思い至ったら、心に長らく感じていなかった感情が少し芽生えていた。単なる奏一の同級生に、嫉妬したのだ。
実は、コンビニで霧島と行き会ってから心の中がモヤモヤしていた。奏一と出会ってさほど経ってないし、当然、奏一に関してユイトが知らないことは多いだろう。霧島が、ユイトが出会う前の奏一を知っていることが羨ましく感じられるのだ。野球をやっていたということを知れただけでも嬉しいけれど、もっともっと沢山の事を知りたいとユイトは思った。そこで、奏一に恋をしていると気付いてしまった。
まだ出会ったばかりで、相手のことを多く知っているわけでもないのに、それでも、急激にいつの間にか惹かれていたのだろうか。この数週間、実は会わない時間も奏一のことを考えていた。次に会えることを楽しみにしていたのだ。自分が傷つくことを恐れて一度は気付かないようにしようとした気持ちだったが、自分自身に嘘を吐けないと思った。
奏一も、ユイトのことを色々と誘ってくれるしそれなりに好意的に見てくれていることはわかる。それでも、自分と奏一では住む世界も違うし、叶う想いではないのかもしれないと思う。だから、一緒にこうしていられるだけで良いのだと自分に言い聞かせた。
そして、自身の心のざわつきを隠しつつ、ユイトはおにぎりを口に運んだ。
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