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二 アイスクリームを一口
「俺、チョコレートとピスタチオのヤツ」
「なにそれオシャレ。俺は何にしようかなー」
寮近くにあるコンビニエンスストアにやって来た俺たちは、さっそくアイスの冷蔵庫に張り付いている。寮には冷蔵庫はあるものの、共用だから持っていかれることもある。だから基本的に、欲しいものがある時は都度、買いに行くのだ。寮の近くは高校と民家があるばかりだが、通りに出るとコンビニくらいはあるので助かっている。
「やっぱバニラが鉄板なんだけど、抹茶も美味しいよね。限定のも気になるー」
「鈴木先輩、ちょっと保守的ですよね」
「冒険出来ない自分が悔しいっ。でも定番選んじゃうー」
迷いに迷って、結局、抹茶味を掴んで、ショコラピスタチオと一緒に会計を済ませる。
コンビニを出ると日差しが強くて、俺は日陰に栗原を誘った。
「寮に着くまでに溶けちゃうから、ここで食べようよ」
「そうしますか」
コンビニ横の駐車場で、カップを開けてスプーンを突き刺す。蒸し暑い中、アイスクリームは格別だ。
「んまー」
「こっちも、美味しいです」
久し振りに食べたけど、やっぱバーゲンダッツは美味しいな。32アイスクリームも好きだけど。
「抹茶も美味しそうですね」
「美味しいよ。食べる?」
スプーンで一匙掬って、栗原に差し出す。栗原は一瞬固まって、それからパクリとアイスを口にした。形の良い唇から、赤い舌が覗く。なんかエロい。
「ちょっと苦くて、美味しいですね。先輩もどうぞ」
そう言って、スプーンを差し出される。あれ、これ「あーん」じゃね。イケメンに「あーん」されてしまった。
内心、フフフと思いながら、アイスを食べる。深みがあって美味しいな!
「美味しいーっ。今度それ買う」
「でも先輩、冒険出来ないからきっとまた抹茶買いますよ」
「見抜くな、見抜くな」
栗原は割りと突っ込みしてくるよな。話していてもポンポンと会話になるし、一緒にいて楽しい。栗原がどう思ってるのかは知らないけど。
「思ったんですけど」
「うん?」
「アイスの方、交換すりゃ良くないっすか」
「ん?」
「まあ、別に良いんですけど。ちょっとビックリしたんで。はい」
差し出されたスプーンを、思わずパクッと咥える。
「あ」
ああ、そうか。言われてみれば、なにも「あーん」する必要なかったわ。自分のスプーンで食えば良いじゃん。
「ちっ、違うからね。セクハラじゃないからね」
「いやー、良いですよ。キニシテナイデス」
「めっちゃカタコトじゃん!」
くそー。違うのに。
(セクハラ男だと思われてしまった……)
うーむ。普段の行いが悪いせいか、言い訳しても信じてくれなさそうだ。まあ、正直、今だって「あーん」に喜んでたしね。
栗原に笑われながらアイスを突っついていると、高校生らしい集団がコンビニにやって来た。部活帰りなのか、みんなジャージ姿だ。
(あら眩しい)
じゃれ合いながらコンビニに入っていく一団を見送り、穏やかな笑みを浮かべる。若い男の子のエネルギーを吸い込んだ気分だ。
「……鈴木先輩って」
「んー?」
「男の子好きじゃないですか」
「ん? お、おう?」
なんか語弊のある言い方だな。
「ゲイなんですか?」
「ぶっふ!」
思わず、アイスを含んでいたのを噴き出す。オイオイオイ。なんか誤解してるぞ。
「違うからねっ!? 俺は男の子は好きだけど、男の子同士がキャッキャウフフしてるのが好きなの! 恋愛対象は女の子だからっ」
「そうなんですか?」
栗原が目を丸くする。やだこの子、俺がそっちだと思ってたの? 誤解よ。
「俺は、あくまでも腐男子なのっ。基本はBL漫画とかだよ。まあ、ナマモノも好きだけど」
ああ、栗原が「ナマモノ?」って顔してる。良いのよ。解らないことは覚えなくて。俺だって覚えてからおかしいんだから。
「でも先輩、イケメン好きじゃん」
「うん」
それはそう。だってイケメンなんだもの。
「ゲイじゃなくても、イケメンが相手ならオッケーしちゃうでしょ」
「そりゃするよ。だってイケメンだよ? 勿体ないじゃん! お顔じっと見てても許されちゃうんだよ?」
「はあ、先輩……」
「残念なものを見るような目で見ないで貰える?」
そんな顔してもイケメンなのね。栗原ってば。
「まあ、俺みたいな壁際モブ男子に、声かけるイケメンなんか居ないけどね」
大抵はスルーですよ。だってモブだもの。認識されてないもんね。
「なんすか、その壁際モブ男子って」
「いかにも『その他大勢』でしょ?」
得意気に笑って見せる俺に、栗原は肩を竦めた。
「先輩は脇役じゃないですけどね。少なくとも、俺にとっては」
「キュン」
あらやだ。可愛い後輩。
ふざけて返したら、栗原は少し不満そうだった。
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