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四 本屋さんに行こう!

 合コン。合コン。  あんな話をしたあとだったので、部屋に帰ってパソコンを起動し、合コンを検索しているうちに、『合コンでイケメンにお持ち帰りされちゃいました』的なBL漫画が目に入ってしまうあたり、生粋の腐男子だと思う。 「いやー、良いわ。お持ち帰り展開からの、攻めの片思い溺愛。マジでツボ。最新刊ないのかな」  両片思いって良いよね。こっちがヤキモキするけど、両想いっていう安心感があるから、最終的にはくっつくよね? って信じられるし、細かいエピソードとか心情が、一方の想いを想像する解像度上げてくれるし。返し読みしちゃうもん。 「読み返しすると思うと、紙で欲しいよなー」  電子書籍もめちゃくちゃ買うのだが、(何しろ、寮のスペースは限られている。)気に入った本は紙で欲しくなる。俺の部屋はベッドにパソコン、本棚があるだけだが、その本棚が寮の部屋にしては大きく、本も大量に置かれている。普通の漫画もあるが、殆どはBL本だ。 「あ、今月の新刊で出てるじゃん! うわ、買いに行かなきゃ」  これは本屋に行って、紙の本をゲットしなければならないよ! (会社の帰り――は、今週はキツいか。週末、土曜日だな!)  カレンダーを確認し、予定を立てる。ついでに新しい本でも探そうっと。    ◆   ◆   ◆  天気は快晴。湿度もまあまあ。絶好の、BL本購入日和であるっ!(異論は認めよう)  こういう爽やかな休日では、インドア派が半数を占める我が夕暮れ寮でも、部屋から抜け出して散歩に出掛けたり、アウトドアを満喫しに行くものも出始める。まあ、俺にかかると二人で出掛けてたらデート、三人以上ならグループデートだと勝手に妄想するんだがな。  一方の俺は、ボッチなので一人で本屋である。ちっとも寂しくない。何故ならBL本を買いに行くから! (待ってろ、推し本!)  と、気合い十分に玄関を出ようとしたところを、出鼻を挫かれる。 「あれ、鈴木先輩。お出掛けですか?」 「っと。栗原くんか」  普段着の栗原は、相変わらずイケメンだった。なんなら後光が射してそう。眩しい。  つい目を細めて見上げた俺に、栗原は何かを察したのか曖昧に笑った。 「今から本屋さんに行くところ」 「ああ、駅ナカですか?」 「ううん。駅前のビルにね、あるのだよ。スイカブックスとブクメイトが」  かつて百貨店が入っていたビルに、今はオタクなお店がぎっしり入っているのである。ブクメイト特典を狙っているので、当然、行き先はブクメイトだ。ヨムヨムスタジオの特典も良かったが、今回はブクメイト狙いである。 「えっ。そんなところあるんですか?」 「フフフ。一般人には解るまい。と言うわけで、行ってくるねー」 「ちょっと待った」 「ぐぇ」  栗原が後ろ襟を引っ張る。キミ、俺の寮内観察知ってから、結構扱いが雑だよね。こちとら先輩よ? 「面白そう。俺も行きます」 「えー、ヤダ一般人」 「それ、偏見ですよ。待っててください」  有無を言わさない強引さでそう言って、栗原は財布を取りに部屋に駆けていく。  一般人と専門店行っても面白くないんだが。あと見にくいじゃん。エッチな漫画。止めて欲しいわ。  本気でげんなりしつつ、断りもできずに素直に待つ。仕方がない。 (まあ、どうせ俺が腐男子なの知ってるしな)  なお、BL本は専門書であるため、書店によってはうまく配置できないことがある。パッとしないラインアップしか置かない本屋には専門家(笑)が居ないと見受けられる。やはりブクメイトしか勝たん。 「鈴木先輩、お待たせしました」 「あ、うん――」  気のない返事をして振り返り、栗原の姿に思わず目を皿のようにして凝視する。  軽くセットされたふんわりした髪と、明るいブルーのシャツにアクセサリーを合わせたコーディネートは、雑誌から抜け出てきたみたいに決まっていた。さりげなくコロンの香りがする。 「先輩?」 「はっ! 顔が良くて……」 「あはは。お眼鏡にかなって良かったです」 「うむむ。なんか良い匂いするし」  無意識にスマートフォンを取り出し、カメラ機能で撮影する。あらポーズ取ってくれるのね。サービスが良い。保存。保存。 「ネクタリンです。美味しそうでしょ?」  そう言って栗原が鼻の近くに手首をかざした。ふわり、甘い香りが鼻孔を擽る。 「はぅぁ……」  うわー、良い香り。甘くて、バニラとかの甘さとは違う、果実の香りだ。好き。  思わずうっとりと顔を緩める。 「せーんぱい、行きましょう?」 「ふぁっ!?」  呼び声に、ハッとして意識を引き戻される。  危ない、危ない。後輩の匂いを嗅いで喜ぶヘンタイさんになるところだった。 「よし、じゃあ行くか」 「はい」  ニッコリと微笑む栗原に、つい気が緩む。ホント、面食いなのも考えもんだ。

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