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二十 嵐来る。
「なんで亜嵐がここに居るんだよ!?」
開口一番にそう言って、栗原が寮の玄関口から飛び出してきた。普段声を荒らげる人物ではないので、こういう様子は珍しい。亜嵐を見て、それから横に居た俺を見て顔を顰めた。
「風馬!」
パァと表情を明るくして顔を上げる亜嵐に、栗原は唇を結んで黙り込む。それから、困ったようにため息を吐き出して俺に顔を向けた。
「……なんで鈴木先輩が?」
「たまたま、そこで会ったんだ。不審者かと思って声を掛けたんだけど」
「不審者だと思ったなら声をかけちゃダメですよ」
それはそうかもしれないけど。
もっともらしい説教を後輩から食らって、こちらも苦笑いする。なんで俺が怒られてるの?
「風馬、先輩なんだって?」
「……ああ……、まあ……」
人懐こい笑顔で栗原に近づく亜嵐に、栗原は曖昧に言葉を濁す。なんで口ごもるんだ。ちゃんと紹介してくれよ。
(もしかして、紹介するの嫌とか?)
そんなに嫌われてないと思うんだけど、もしかして恥ずかしいとか思われてんのかな。まあ、確かに、腐男子ですけども。
(ああ、それとも――身内を見られて、恥ずかしいのかなっ!?)
家族を友達に見られる気恥ずかしさは解る。バイト先に家族が遊びに来て、バイト先の友達に見られるの、別に冷やかされるわけじゃないけど、何だか気恥ずかしかったものだもん。そう思うと、ちょっと栗原が可愛らしく見えてくる。時々可愛げがなくて、概ねカッコよくて可愛い後輩だけど、こういう一面もあるのだな。
ふふふ。思わず笑う俺に、栗原が怪訝な顔をした。
「――とにかく、俺は門限もあるし、寮には入れられないし、そもそも、連絡もなしになんなんだよ」
「う、ん。いや、だって、風馬も忙しいだろうし、こうしないと会えないかなって……」
亜嵐はそう言って、肩を小さくする。なんだか、栗原のほうがお兄さんみたいだ。亜嵐は叱られた子供みたいに身をすくませて、栗原の様子を窺っている。なんとなく、亜嵐はグイグイ引っ張っていくお兄さんタイプではないらしい。弟の方がしっかり者って感じだ。
「……来ちゃったもんは仕方ないけど……。先輩、ちょっとその辺歩いてきますんで。門限までには帰ります」
「あ、うん」
亜嵐を押しのけるようにして、栗原はそう言って門の方へと歩いていく。栗原の身体からひょこっと顔を覗かせて、亜嵐が笑う。
「先輩さん、ありがとうございました。それじゃあ」
「あ、うん。お仕事応援してるよ~」
亜嵐が手を振るので、こちらも手を振り返す。栗原はそのまま、門の外へと亜嵐を連れて行ってしまった。
(……結局、紹介して貰わなかったな……)
なんだか、慌しく行ってしまった。少し残念な気もするが、あまり馴れ馴れしくされるのも嫌だろうし、栗原も身内のことを聞かれたくはないだろうし、仕方がないか。
「しかし栗原亜嵐、イケメンだったな~」
国宝級イケメンって奴だろうか。やっぱアイドルって違うわ。
まあ、うちの栗原のほうが最高ですけどねっ!
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