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三十二 おかしくなりそう
栗原の腕に抱かれたまま、額や瞼、頬にキスされる。なんだか恥ずかしい。
(本当に、マジで、俺のこと好きなのか……)
驚きすぎて、実感がわかない。イケメンなのに趣味が悪い。
「っ、く、栗原……。もう、やめて」
「嫌です」
「せ、せめて、下、履かせて……。いい加減、冷えて……」
「は?」
怒気を孕んだ声に、ビクッと肩を揺らす。
「先輩、まさかこのまま何もしないと思ってんの?」
「ひ、ひええぇえ……」
やっぱり? そうなる?
「な、何かするの……?」
自分でも白々しいとは思うが、恐る恐る確認してみる。
「しますよ、そりゃあ、色々と」
「いっ、色々」
栗原の指が、胸のあたりに触れる。ぞくっと、皮膚が震えた。Tシャツの上から乳首をなぞられる感覚に、ビクビクと身体が跳ねる。
こんな感覚、味わったことがない。そんな場所、触ったことなどない。
「あ、あっ……」
「乳首……も、触ってみたかったんです」
「ふぁ、あ……。や、やだ……、嘘」
おかしいよ。なんでちょっと気持ち良いの? あれはファンタジーの話じゃん。
「先輩、感じてる?」
「あ、あっ……」
ヤバい。ヤバいって。このままじゃハード系BL漫画みたいに乳首イキ出来るように開発されてしまう。
栗原の手を押さえつけ、左右に首を振る。栗原が唇に薄く笑みを浮かべた。
「先輩、可愛い……」
蕩けるような笑みでそう呟く栗原に、俺は顔を背ける。可愛いとか、マジであり得ないんだけど。
「今っ、史上最高に不細工だからっ……、見るな、よっ…」
酷い顔になってるって、見なくても解る。こんな顔、見られたくない。
「何言ってるんですか。こんなに可愛いのに」
「ふざけっ……、わっ!」
栗原が服の裾を持ち上げ、首もとまで捲り上げる。殆ど裸にされてしまって、恥ずかしさに顔が熱くなった。
「ちょ、ベッドの上で裸になるの嫌なんだけど!」
「……もしかして先輩、童貞……」
「ちゃ、ちゃうわっ!」
動揺して変な声が出てしまった。嘘じゃないのに、嘘っぽい。
「まあ、良いですけど――脱がなきゃ、色々できないでしょ。まあ、着衣がお好みって言うなら、それでも良いですけど」
そう言って、栗原は自分の羽織っていたトレーナーを脱ぎ捨てた。栗原の肌に、ドクンと心臓が跳ね上がる。ひとには嫌だと言っておきながら、他人のはついガン見してしまう。
視線に気づいたのか、栗原が笑う。バカにされてる気がする。
「先輩、観察好きですもんね」
「う、うるさいわ」
「良いですよ。見て。先輩のものですから」
「っ」
手を掴まれ、栗原の胸に導かれる。
(っ、こ、これは、栗原が触らせて来たんだし……)
吸い付くような、滑らかな肌。弾力のある筋肉。意外に、筋肉があるんだ。俺と違って、胸筋があるし、少しお腹も割れている。俺ってばポヨポヨなんだけど。
(自分が恥ずかしくなってくるな……しかし、俺の、もの……か)
ごくり。この美しい身体が、俺のものだっていうのか。いやいや、あくまでも栗原のものだろ。ただ、触れて良いと許可を貰っただけだ。恋人だからって、勝手に触れて良いわけじゃないんだ。勘違いするなよ。
(顔も身体もカッコいいんだもんな……)
しかも性格だって良いし。社交的だし。声も良い。神様が贔屓して作ったに違いない。良くやった。最高だ。
「先輩の乳首、可愛いですね」
「っ、こらっ……」
直接触れられ、ぴくんと身体が揺れる。甘い痺れに、腰がざわめいた。
「ピンク色で、触って欲しいみたいですよ。ほら、勃ってる」
「おっ、お前、言葉責めするタイプなのっ?」
「事実を言ってるだけですよ。まあ――先輩、好きでしょ? こういうの」
「っ、……」
大好物です。
ああ、自分に言われてるんじゃなければ。くそ、恥ずかしい。BL漫画のキャラたちは、こんな恥ずかしい思いをしてたのか? 客観的に見てたら「良いわー、萌えるわー」って思ってたのに。自分事になると、恥ずかしくて死にたくなる。
「栗、原っ……」
もう辞めてと、手を握ると、栗原は今度は唇を近付けてきた。首筋にキスされ、そこからゆっくりと、キスを落としていく。鎖骨、胸、また鎖骨……何度も胸元にキスされ、その度にピクピクと身体が跳ねる。
「あ、あ……ん」
呼吸が浅くなって、だんだんと意識が朦朧としてくる。少しずつ、体温が上昇するのと同時に、とろかされていくようだ。
栗原の唇が、胸の突起に触れた。軽く、先端にキスされ、ぞく、と背筋が粟立つ。そのまま赤い舌を伸ばして、舌先で先端をつつくように転がされる。
(あ、たま――変に、なりそ……)
ジンジンと甘い痺れが疼き出す。栗原は舌先で先端をいじくり、乳輪を舐めるように舌を動かし、やがて先端を咥え込んでちゅうっと吸い上げた。
「っ、あ!」
ひときわ強い刺激に、身体を捩る。ベッドが軋んで音を立てた。
(あ、俺)
下腹部に溜まる熱に、カァと顔が熱くなる。乳首を弄られて、勃ってしまった。
栗原に知られたくなくて、モゾモゾと誤魔化すように身を捩る。
「先輩、どうしたの?」
「っ」
「ん? ああ――」
気づかれた。
栗原の手が、軽く上を向いた性器に伸びる。ビクッと膝を揺らして逃げようとするが、栗原が脚を膝で押さえつけてしまい、逃げられなかった。
「先輩が気持ち良くなってくれて、嬉しい」
「ば、ばか……恥ずかしいこと、言うなって」
「俺のも」
栗原が自身を押し当てる。何もしていないのに、すでにパンパンに膨らんでいる。
何度も、触れたのに。何故かいつもより、ドキドキした。
「……栗原」
ハァ、と吐息を吐き出し、名前を呼ぶ。栗原の手が腰に伸びた。
「!」
固まった俺に、栗原が笑う。
「先輩怖がってるのに、無理しないですよ。今日は、やらないです」
「ほ、本当に……?」
ホッとして、緊張を緩める。でも『今日は』なんだよなあ。後々には絶対やるぞって、顔に書いてある。どうしようか。
栗原はベッドの横にある棚に手を伸ばし、中から何かを取り出した。見覚えのあるボトルに、ビクッと肩が揺れる。
「ちょ、ちょ、今日はしないって言ったよね!?」
どう見てもローションなんですが。入れないって言ったのに!
泣きそうな俺に、栗原は唇を曲げて、不満そうな顔をする。
「やらないって、言ったでしょ。信用ないなあ……」
「だ、だって」
「まあ、待ってよ」
そう言って栗原はローションを手に取ると、俺の性器に擦り付けた。
「ふぁ、あっ……!」
ローションの滑りが、気持ち良くて、ゾクゾクと背筋が震える。いつもとは違う、もっと、何か。
「あ、あ……栗原っ……」
栗原はしばらく俺の性器を弄んだあと、手を離してしまった。刺激がなくなり、物足りなさに栗原を見上げる。
「栗原……?」
ローションを追加し、栗原は自身の性器にも塗りつけた。そのまま、俺の膝に手を掛け、脚の間に性器を挟む。
「っ!」
(これって……)
知ってるぞ。エッチなBLで見たヤツ。素股ってヤツだ!
「ふぁ、ちょ」
「一緒に、気持ち良くなろ? 先輩」
可愛く小首を傾げてそう言われ、脳内でイエスと反射的に返事する。だが、可愛いのは一瞬だった。
ずちゅ、と擦り上げられ、ビクッと背筋がしなる。栗原は獰猛な獣みたいな目付きで俺をくみしいて、太股に腰を打ち付ける。
「あっ! あ、あっ……!」
「先輩っ……、鈴木先輩っ……!」
「ん、あ……! 栗、原っ……!」
大型犬だと思ったら、狼犬だった。腰を揺らす度、ギシギシとベッドが悲鳴をあげる。
互いのを擦るのなんか、今までだってやって来たのに。全然、違う。
「あ、あ――っ! これっ、も、セックス、じゃんっ……!」
「全然、違いますよっ……。でも」
栗原が、唇噛みつく。擦られながら舌を吸われ、脳が溶けそうだった。
「少し、先輩を抱いてるみたいです……」
俺は、抱かれてるみたいだよ。
朦朧とした意識で俺は、甘えん坊の大型犬みたいな栗原の首に、腕を回して引き寄せた。
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