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三十三 束縛系彼氏
ぐったりとベッドに体重を預ける。息も絶え絶えで、汗が滲んで、心臓がドキドキして、でも、不快じゃなかった。
栗原がドサリと真横に寝転がる。伸ばした腕に引き寄せられ、胸の中にすっぽりと捕らわれる。
「く、栗原……」
「鈴木先輩、好きだよ」
「っ……」
破壊力ありすぎる。顔が熱い。
「お、俺はっ……」
「解ってますよ。でも、顔は好きでしょ? 先輩」
「ま、まあ……」
そりゃあ、勿論。そうだけどさ。
「結構、先輩も俺のこと好きだと思ってたんですけどね……。やっぱ、急ぎすぎましたか」
「あ、あのなあ……」
好きって。そりゃ、栗原のことは気に入ってるけどさ。そんな風に言われると、少し恥ずかしい。俺、そんなに顔に出てたかな。って、違うぞ。好きじゃないぞ。そういう好きじゃないからなっ。
「大丈夫です。前にも言いましたが、先輩は保守的ですからね。でも、必ず先輩の価値観を変えてみせますから」
「う、うう……」
栗原は少し、押しが強いところがあるよな……。これから、どうなるやら。
「で、正式に彼氏になったことですし」
「あ、うん?」
そう言えば、流れでオッケーしちゃったんだよな。何でオッケーしちゃったんだろうか。少し不安だ。
「俺、先輩に関しては束縛系彼氏なんで、俺に黙って誰かと逢わないでね?」
「ぐふっ」
笑顔なのに、何故だかどす黒い雰囲気でそう言われ、心臓がずきりと痛む。
わざとじゃないけど。亜嵐が怒られるかもと思って黙って行ったけど。やっぱ怒ってるじゃん!
「く、栗原……亜嵐くんに逢ったのはね」
「先輩、亜嵐のことは名前で呼ぶんですね?」
「あう。そ、それは……」
「先輩?」
「……ふう、ま」
風馬と呟くと、晴れやかな笑顔で笑って、ぎゅっと抱き締められる。苦しい。苦しい。ギブギブ。
「先輩、可愛い」
「ばっ、ばか言うな。っていうか、お前だって、『鈴木先輩』だろ。そ、その……彼氏、なのに」
目をそらして、そう呟く。なんかすごい恥ずかしいことしてる気がして、後悔が一気に押し寄せる。
クソ。恥ずかしくて調子に乗った発言をしたのは、どこのどいつだ。ああ、死にたい。
「――一太さん」
「ぎゃーっ!」
言葉の破壊力に、咄嗟に悲鳴をあげる。耳が熱い。顔から火がでそう。
「大袈裟ですよ。まあ――二人きりの時だけ、そう呼びますね」
「う、うん……」
「徐々に馴れ馴れしくしますから」
「言い方よ」
なんだか、調子が狂うな。束縛系彼氏だかヤンデレ彼氏だか知らないが、執着されているのは間違いない。一体、なんでこうなったんだ。
「い、言っておくけど、俺が亜嵐くんと逢うことになった原因はお前だからな?」
「それは――それは、解ってますけど」
ムッとした様子で溜め息を吐いて、風馬は俺の頭を抱き寄せる。さっきから、ぬいぐるみじゃないんだから。
(そういや、飯に誘うつもりで来たんだけどな……)
まあ良いか、と思いながら、俺は風馬の胸に頭をすり寄せた。
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