覆い被さるように抱きしめられキスをされた。ピチャピチャと音を立てながら何度もキスを交わす。舌を舐(ねぶ)られ、ガジガジと甘噛みされ、あふれそうになる二人分の唾液を嚥下するまで貪られた。 　甘くていやらしいキスの合間に見たジンは、行為に熱中しているような顔をしながらも潤んだ目で必死に謝っているように見えた。 「ジン、ちょっと待て、」 　キスの合間にストップをかけると、大きな体を大袈裟に震わせてピタリと動きを止める。泣きそうに眉を下げている顔は可愛いと思う。だが「いい加減、腹をくくれ」と少しだけイラッとした。 「ジン、なんで申し訳なさそうな顔してんだよ」 「だって……」 「俺もおまえが好きだって言ってんだろ？　それでおまえも俺のことが好きなら、何も問題ないだろうが」 「……でも」 「好きあう者同士がキスしたりセックスしたりって、普通だろ。なのにおまえのその顔、何だよ。謝ってるみたいに泣きそうな顔されたら萎える」 　そう言うと、男らしい顔がますます泣きそうに歪んだ。 「それとも何か、やっぱり俺とはそういうことはしたくないってことか？」 「違う！　そんなこと絶対に思わない！」 「じゃ、何の問題もないだろ？　なんだよ、何か言いたいことがあるならはっきり言えよ」 　太腿に当たっている硬いモノがジンの正直な気持ちを伝えているのはわかっている。だったらどうして泣きそうな、それにつらそうな顔でキスをするんだ。 「……俺は狼だから、一度つがいになった相手とは一生添い遂げることになる」 　また狼の話か。俺はジンを狼だと思っていないが、おとなしく話を聞くことにした。 「狼はつがいに対する愛情がとても強いんだ。一生つがいのことしか愛さないし、絶対に離さない。何があっても守る。もしつがいが誰かに何かされたりしたら、相手を殺すことだって厭わない。それくらい狼のつがいへの気持ちは強くて深いんだ」 　潤んでいる目が静かに閉じた。そうして再び開いたジンの目は、なぜか琥珀色に変わっていた。その目がじっと俺を見つめている。 「一度つがいになったら二度と離してやれなくなる。俺はカグヤのことをつがいだと認識したから、こうして発情期を迎えたんだ」 　つがい。聞き慣れない言葉だが、話の内容からして夫婦みたいなものだろうか。ということは、ジンは恋人をすっ飛ばして夫婦みたいな感情を俺に抱いていると言いたいのかもしれない。 （何て言うか、えらく情熱的な国から流れてきたんだな） 　単純にそう思った。そういう国か地域から流れてきたんだろう。この世界は、どこに行っても見た目や言葉ではその人のルーツがどこなのかわからなくなって久しい。だから人は流れ者にも寛容で、そして誰の祖先でも同じように大事に思う。 　そんな世の中でも「自分は狼だ」なんて言う奴はまずいない。だが、ジンは心の底からそう思っているらしい。そんなジンが真剣に話してくれたことを馬鹿にしたりはしない。本人がそう信じているならそうなんだろうし、それで悩んでいるなら本人にとっては重要なことに違いないからだ。 　ジンの言っている意味を正確には理解できないが、一度恋人になったらとことん離さないってことを言いたいに違いないと理解した。そういう気持ちは重くて嫌われるんじゃないかと気にしているのかもしれない。 （大きな体なのに小さいこと気にしやがって） 　家族のいない俺にとって、一生離さないでそばにいてくれるのは大歓迎だ。そこまで思ってもらえるなんて恋人冥利に尽きるし、むしろドンと来いと受け止めてやる。ちょっと変わったところはあるが、全部ひっくるめてそんなジンに惹かれた。そのうえ情熱的に思われているのならこんなに嬉しいことはない。 「奇遇だな、俺も結婚したら死ぬまで添い遂げたいと思っているんだ。浮気はしないし、浮気されるのも大嫌いだ。それに好きな奴を守りたいって気持ちはよくわかる。俺だって男だからな」 　俺の言葉をジンは微動だにせず聞いている。まるでひと言も聞き漏らさないようにと全神経を集中させているかのような姿に、やっぱり可愛い奴だなと思った。 「俺のことをそこまで思ってくれるなんて、むしろ嬉しいだけだろ」 　ジンの目が、また大きく見開かれる。 （何をそんなに驚いてんだか） 　そもそも好意を持っていなければ毎晩キスして抱きしめられながら寝たりはしない。それなのに、ジンは俺の気持ちに微塵も気づいていなかったということだ。 「二度と離してあげられなくなるよ？　俺のそばに縛りつけて、どんなに嫌がっても泣いても、絶対に手放してあげられないってことだよ？」 「そんなジンも俺は好きだよ」 　俺の言葉に、ジンの顔が大好きなふわりとした笑みに変わった。 「ありがとう」 　囁くように告げられた言葉は少し震えていた。そんなジンが愛おしくて、包み込むようにギュッと抱きしめた。 　その後、俺はジンに抱かれた。何度も抱きしめられキスをされ、熱くてデカいモノをぶち込まれた。 　初めて見たジンのモノは俺のよりずっと大きくて、さすが体格に見合ったサイズだなと妙に感心した。それが本当に自分の中に入るのか不安や恐怖がなかったわけじゃない。でも、丁寧に尻孔をいじられるうちに興奮して我を忘れた俺は、気がつけば自ら「突っ込め」と口にしていた。 （最初と二度目は、たしかに痛かったし苦しかった） 　あんな巨大なものを小さな孔に入れるわけだから、悲鳴を上げてしまっても仕方がない。そんな俺に真剣に謝りながらも、ジンは決して行為をやめようとはしなかった。 　そうして連続で受け入れること三度目、唐突に俺の内蔵が快感を拾い始めた。それまでの痛みや苦しさなんてなかったかのように、それからはただただ気持ちがよかった。いままで感じたことがないくらいの絶頂を迎えた俺は、全身の力が抜けてぐったりしてしまった。 　朦朧としている俺に構わず、その後も四度目、いや五度目までやった気がする。そのまま気絶するように眠った俺は、翌日の夕方遅くになってようやく目が覚めた。 「ごめん。発情してる間は自分でも抑えられないんだ」 　目の前で大きな男が体を小さくしながら謝っている。 　腰の抜けた俺は、すっかりベッドの住人になっていた。トイレに行くにもジンの手を借りないといけない具合で、そのたびに泣きそうな顔をしながら謝られる。 「いいよ。俺だってシたくてシたわけだし。それにまぁ、なんつーか、最後のほうは気持ちよかったし」 「カグヤ……！」 「ちょ、重い、重いって！」 「ご、ごめん」 「頼むから押し潰さないでくれよな。それはそうと……発情期、治まったのか？」 　たしか一週間くらい続くと言っていたはずだが、いまのジンはいつもと変わらないように見える。丸一日シていたとは言え、それで治まったのだろうか。 （まぁ、丸一日やり続けるってのもどうかと思うが） 　そもそも普通の人にそんなことができるんだろうか。性欲が強い奴だったとしても、さすがに度が過ぎている気がするが。 「うん、もう大丈夫。狼はつがいと交わると早く発情期が治まるんだ。個体差はあるけど俺の場合は初めての発情期だったし、もしかしたら短いほうなのかもしれない」 「そっか」 「カグヤ、ありがとう」 「何がだよ」 「俺を受け入れてくれて、俺とつがいになってくれてありがとう。俺、一生大事にするからね」 　ふわりと笑うジンに胸が疼き、ついでに体も疼きかけて驚いた。あれだけやったっていうのにどういうことだ。そもそも俺はそんなに性欲が強いほうじゃない。なのに、出し切って何も残っていないはずの股間が妙に疼く。 （まぁ、こういうのは初めてだしな） 　深く考えるのはやめることにした。そもそも考えたところで何もわからない。 　こうして俺は「自分が狼だ」というジンと恋人に、いや家族のような存在になった。