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ゆっくりと目を開けると、見慣れた天井。目線を動かし、辺りを見渡すと自分の部屋であることが分かった。
あの後俺は気を失ってしまったようだ。ここまで仁が運んでくれたのだろうか。
怠い体を目を擦りながらも起こすと、太ももがなんだか重たく感じた。
「··········翠?」
俺の膝の上には、腕を畳んで枕にして寝息を立てる翠の姿があった。俺の目が覚めるのを待っててくれたのだろうか。
すー、すーと小さく息を立てて眠る翠がなんとも愛おしく感じ、柔らかな頬を手の平で優しく撫で上げた。
「········ん」
すると俺の手に翠の温かい手が重ねられ、心臓が飛び跳ねてしまう。同時に心臓がきゅうと圧迫され、鼓動が早まってくるのが分かるのだ。
ーーああ、俺、やっぱり翠が好きだ。
なぜだか急に、翠に触れたくて堪らなくなった。まだ翠は寝ぼけているだろうから、おそらく触れてもバレないだろう。
淡く色付く濡れた唇に、ゆっくりと顔を近付けた時だった。
「付き合って早々に浮気か。薄情な奴だな」
扉の方から投げかけられる声に、反射的にばっと翠から顔を離した。
まさか、と恐る恐る振り返ると、やれやれと首を振っている仁の姿があった。
「じ、仁········」
扉に寄りかかり腕を組んでいる仁は、目を伏せると「ま、分かってたけどな」とぽつりと呟いた。
仁とぱちっと視線が重なると、先ほど仁にされていたことが鮮明に頭の中に流れ込んでくるのだ。一瞬で顔が真っ赤になる俺を見る仁は、くすくすと笑った。
「綾、さっきの続き、するか?」
からかうかのように目を細めてくる仁がなんとも憎らしかった。
一言なにか文句を言ってやろうと、立ち上がるために腕に力をかけた時、「ちょっと仁くん」と不機嫌な声が足元から飛んできた。
「せっかく綾人くんからキスしてくれそうだったのにさ、なに邪魔してくれてんの?」
翠は俺の手をきゅっと掴み、口を尖らせながら仁を睨んだ。
その手の体温は仁と一緒なのに、「仁のところには行くな」と言わんばかりにきつく握られる手の熱に心臓が高鳴り、バクバクと心音がうるさかった。
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