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黄昏が眠る空の下、朱音はあるマンションの前に来ていた。 数日前、朱音に送られてきたメッセージは紫音からで、ベッドに寝転がっていた朱音は読んで字のごとく、飛び上がるほどに喜び、そしてすぐさま、『空いてる! どうしたの』と返信した。 『今は言えないけど、朱音に会えるのを楽しみにしてる』 そのメッセージと共に、紫音が住んでいるというマンションの住所が送られてきた。 この日が来るまで朱音は、狂喜大乱舞をしていた。 本当に夏季休暇で良かったと思う。ではないと、特に大野にからかわれてしまうからだ。 それに、紫音の立場も危うくなるかもしれない。 屋上でたまたま同級生らに見つかってしまったが、その後「何がなんでも守秘義務でいるから!」と言ってきたから、その言葉を信じて過ごすしかない。 そうして浮かれた気持ちのまま迎えたこの日、エントランスに向かった朱音は、教えられた紫音の部屋番号を、そして、呼び出しを押した。 『来てくれたんだね』 「しおんに──」 聞きたかった声が聞こえ、つい出てしまいそうになった言葉を噤んで、辺りを見渡す。 『⋯⋯色々と気を遣わせてしまっているね』 「そんなことないって! 俺の方がしお⋯⋯気を遣わせているし」 『部屋に来てもらえる?』 ついつい呼んでしまいそうになる自分に腹を立てながらも、開かれた扉を潜り、紫音が住んでいる部屋へと赴いた。 「いらっしゃい、朱音」 「しおんにぃ!」 扉が開かれた時、柔和な笑みをする久しぶりの画面越しではない恋人に、朱音は見るなり飛びついた。 「しおんにぃ! しおんにぃ!」 グリグリと擦りつけていると、「くすぐったいよ、朱音」と体を揺らしていた。 「でも、熱烈な歓迎ありがとう。とても嬉しい」 昔から変わらない優しい撫で方に、目を細めていた朱音の頭に、手とは違う感触が伝わり、固まった。 頭にキスされた!? 急いで顔を上げると、愛おしそうに微笑む紫音の姿があり、思わず見惚れていた。

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