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「しおんにぃの言う通りなんだけどさ⋯⋯」
紫音のために何かしてあげたかった朱音は、不服そうに口をとがらせる。
それから、手持ち無沙汰となった朱音は辺りを見回す。
キッチンと地続きのリビングはモデルルームかと思うほど、限りなく家具が少なく、生活感がまるでない。
ある程度広いのにもったいないと思ったが、多忙の身である紫音だから、家は寝に帰るためだけの場所になっているかもしれない。
そんな忙しい合間を縫って会ってくれる紫音に、少しの申し訳なさと、嬉しさと感謝でいっぱいになっていた。
朱音から見て右側にある閉ざされた扉は、きっと寝室であろう。
寝室、というと、紫音の卒業式の後、朱音の部屋のベッドで、初めて紫音と身体でも繋がったことを思い出してしまい、顔が瞬時に朱に染まる。
「お待たせ──って、朱音、どうしたの? もしかして熱中症!? 朱音の家から遠かったもんね。もう少し部屋を涼しくして、ベッドに横になろう。それから──」
「しおんにぃ、大丈夫だって! 俺、そんなに弱くねーし!」
「⋯⋯本当に?」
「本当だって! ほら、飲みもん落としそうになっているって!」
血相変えて、落としかけた飲み物を手に取ると、「あぁ⋯⋯ごめんね」と持ち直す。
「しおんにぃはあまりにも心配しすぎだって」
「だって⋯⋯大切な人が苦しんでいる姿を見るのは、もう嫌だから」
それは梅雨時、たまたま紫音と帰ることになった際に、朱音が投げやりになって、雨に濡れた結果、風邪を引いたことなのか、あるいは小さい頃、風邪を伝染《うつ》してしまったことを責めているのか。
どちらも完全なる自業自得なのだから、気にしなくていいのに。
しかし、こうとも考えられる。
不安そうな表情を表すほど、自分のことを大事に想っていることに。
そう思うと、自然と頬を緩まずにはいられない。
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