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7.
いつもの穏やかな笑みを浮かべて、さらりと言う恋人に、衝撃で手から飲み物が零れた。
「あ、朱音、 ジュースが──」
「いやいやいや! しおんにぃ!? 何を言ってんの? そんな簡単に辞めちゃダメじゃん! え、いいの?」
「いいんだよ。だって、したかった戦隊モノがやれたから、もうこれから先もやる必要性がないし。それに僕が一番大事なのはファンじゃなくて、朱音だから」
「いやいやいやいや」
そう言われて、嬉しいような、いや、こんな感情になってはダメだと自分自身に言い聞かせ、「ダメだって!」と声を荒げた。
「これから先もまた、戦隊モノに出れる機会があるかもしれないじゃん! 俺があんなことを言ったらいけないけど⋯⋯でも、俺のせいで辞めるとか言うなよ。だったら俺、しおんにぃと会うのを止めるし!」
勢い任せで言ってしまった言葉に、徐々に後悔の波が押し寄せて来るが、この際そうも言ってられない。
それよりも紫音がそれを聞いた途端にこの世の終わりだと言わんばかりに、膝から崩れ落ちた。
「しおんにぃ!?」
「そんなこと⋯⋯朱音の口から⋯⋯そんな⋯⋯」
うわ言のように呟く紫音に、さすがに言い過ぎたかと思い、「しおんにぃ、ごめん⋯⋯」と一緒になって膝を着いた。
「それこそ、朱音が謝ることじゃないよ。僕のために言ってくれたことなのだから」
「でも、しおんにぃ、めっちゃショック受けているし⋯⋯」
「⋯⋯大げさ過ぎたね。朱音のことが好きすぎてこんなことを言われるはずがないと、幻想を抱いてしまったせいだよ」
「だから、気にしないで」と、あやすように頭をポンポンしてくれた。
自分のことは、いつまでも落ち込んでいるクセに、朱音のことになると、本当に気にしてないと言うものだから、これ以上言っても埒が明かない。
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