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Classmate 3

「一人暮らししてるんだって?上がって上がって、細いなぁ……たくさん食べなさいよ?」 挨拶もさせないくらいくらいの勢いで姉……森下千佳は三島をグイグイ引っ張ってダイニングに連れて行ってしまう。 「姉ちゃん、手洗いくらいさせろよ」 「おしぼりくらい用意してるわよ。お客様対応なら任せろよ?グズグズしてないであんたはさっさと着替えてきな。」 「はいはい。三島、嫌いなものとかあったら食べなくていいからな?」 「うるさい、あんたはさっさと着替えに行く!ついでに手も洗ってきなさいよ?」 「おしぼりがあるんだろ?」 「お客様用に決まってるでしょ?いつもみたいに柄が良くない人、連れてくるんだったら手を洗いに行かせたけど、珍しいじゃん、いつもと系統が違ってさ。こういう弟欲しかった〜」 「……これと兄貴で悪かったな。同じ親から生まれてんだから、それは諦めろ。」 そう吐き捨ててから2階の自分の部屋へと向かう。両親は自営で工場をやっていて、それなりの規模の会社だった。そこの社長をしているのが父、事務関係のトップをしてるのが母、兄は系列会社で修行をしていて、行く行くは跡を継ぐのだろう、と思っている。 姉は自宅で経理などの事務作業をしながら、帰宅した両親、兄への料理をキッチンに残しつつ、パソコン作業の為、データは会社に即座に転送されるが、必要書類は毎日母親がファイルに入れて持って帰ってきては、処理の済んでいるものは回収していく。 母の補助的な仕事なので、社内広報などもつくらされているようだった。 そんな生活の中でも比較的自由にさせてもらっているのが末っ子の特権だと思っている。兄貴が継ぐなら自分は自由な職場が選択出来る、と思っている。家族経営で怖いのは仕事がコケたときだ。姉と兄は会社に縛られることになるだろうが、大学からは実家を出てやりたいことへの勉強を始めようと思っていた。 文系に進みたい、というのは本音であるし、やりたいことも見つけているが、誰にも話していない。普段着に着替えて部屋を出る。 ダイニングキッチンにたどり着く頃には三島は姉の質問攻めにあっていた。 「へぇ、そうなんだ。まだ、若いんだし、やりたいことなんて大学に入ってから決めてもいいんじゃない?でも、法学部目指してるってすごいね。検事になりたいとか、カッコイイじゃん」 その言葉にドキッとしたのは悠斗の方だ。 『同じ大学に行けるといいね』 三島はそう言っていた。まさか目指してる学部が同じだとは思ってもみなかった。 ただ、悠斗は検事ではなく、弁護士を目指している。先を見ての判断だった。実家の工場に関しては兄と姉はそのまま仕事を継続していくだろうし、規模を拡大するにしても縮小するにしても法的書類は必要となる。 結局は悠斗も家業の心配はしてるということになる。間接的に関わることを選んだのだ。 「でも、希望の大学に入れたら実家に戻るんでしょ?なんで東京の高校じゃなくてこんなところに来たの?進学校だってあっちにはたくさんあったでしょ?」 たぶん、千佳にしか話さないであろう話をしている2人のところに入りづらいのと、話が気になり足を止めてしまった。盗み聞きするようで悪い気はするが、進路のことで話すことがそのうちに来ることも想定して、詳細を知りたかったのもあった。

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