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第15話

 約束の日はあれから一週間後の土曜日に決まった。美弥子さんに楓さんとの予定を話すと前のめりになって日本酒についてレクチャーしてくれた。 「楓くんって結構飲むの? 付き合いは多いって聞いたことはあるけど」 「この間は飲んだ時は普通に飲んでたけど酔ってる感じはなかったな」 「そりゃあ学生さん連れてべろべろにならないでしょ」  お互いにそれはそうか、という雰囲気でぱちっと目を合わせた。 「楓さんって酔ったらどうなるのかな」 「それはいい観点だね」 「楓くん、酔ったら面白いみたいだよ」  キッチンの片付け中、仕込み作業がひと段落したらしいマスターが会話に加わった。 「前に楓くんが友達を連れて来て話してたよ。気分が良くなると誰にでも話し掛けて仲良くなろうとするんだって」 「え、ナンパってこと?!」  美弥子さんがクリクリした瞳をさらに大きく見開いた。対して俺の胸は嫌にどくどくとざわめいた。 「いや、そういうわけでもないみたいで。ただあの顔でニコニコ話し掛けられたら本人にその気がなくても相手が乗り気になっちゃうだろ? そうならないように友達が回収するんだってさ」  俺は想像してみた。薄暗いバーのカウンターで酒に酔った楓さんが隣に座った女性と仲良くなろうと声を掛ける。こういう時なんと声を掛けるのだろう。にこやかに笑って容姿や服装を褒めるのだろうか? 「素敵なネイルですね」とか「綺麗なピアスですね」みたいな感じだろうか。そうして女性がその気になったタイミングで友達が割って入る、ということか……。 「ナンパじゃない?」  美弥子さんも似たような想像をしたのだろう、俺達の発言は見事に重なった。 「まあまあ。光くん真相を確かめてきてよ」 「私は楓くんが女の子お持ち帰りしてる姿は見たくないな~。絶対阻止してね」 「ちょっと待って、楓さんを酔わせられるほど俺酒に強くないですよ!」  思いがけない情報に心が乱されてしまった。恐らく俺の前で楓さんが飲み過ぎるなんて失態を晒すことは無いと思うが、実は女癖が悪かったとしたら受け止められる気がしない。以前、それこそ俺が酔うと女癖が悪くなると誤解されていた時はすごく驚いていた楓さんだ、そんな衝撃の事実はないと信じたい。

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