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第5話
「ごめん……」
「いいって、いいって、良樹は俺達に指示してくれりゃいいから……」
翌日。病院に行ったオレは特にこれといった病状はなく、軽い熱中症だと診断された。
「ちょっとうるさいかもしれないけど、ちゃんと休んで、後半遊ぼうぜ~」
「うん。ありがとう」
「良樹。辛くなったらすぐ呼べ」
「穂積、ありがとう」
触れた手の温もりが暖かくて涙が出る。穂積が好き。こんな気持ちになれた事に本当に感謝しかない。ありがとう。本当にありがとう。素敵な時間を、大切な時間をありがとう。オレは穂積と幸せになりたかった。でも穂積が幸せになるには、オレがそばに居ちゃいけない。さよならしたくない。別れを告げたくない。でも、しなくちゃいけない。
チリーン……――。チリーン……――。
風鈴の音が聞こえる。オレを呼ぶ声がする。優しくて暖かい声。行かなくちゃ。大丈夫、オレはもう一人じゃない。穂積の思い出だけで生きていける。
「穂積、大好きだったよ。今までありがとう」
やっと、ちゃんと言えた。
「良樹……?良樹……――」
聞こえる。声が聞こえる。縁側で二人。肩を並べて風鈴の音を聞いていた。
オレが笑うと、あの人も笑って。ずっと一緒にいようねって約束した。
小指だけじゃ足りなくて、手だけじゃ足りなくて。
抱きしめて、その名前を呼んでは約束を確かめあった。
「良樹……――。良樹……――」
その背中が熱くて、キシキシと痛む。
「……み……離れ、たくない……」
「良樹……――良樹……」
背骨がギリギリと音を立て軋み、それはパキリと鳴って聞こえなくなった。
「良樹……――」
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