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第3話

――ヒーロー? その言葉だけが妙に残った。 顎を掴まれたまま、睨みつける。 「……だまれ」 無理やり振り払うように、手を払う。 また楽しそうな目で、こちらを見つめる。 「あれ?ビンゴ?」 「殺されたくないなら、もう喋んな」 「またまた〜」 また、からかうようにクスリと笑う。 「……いい加減どけろよ」 「ウーン。それは無理だなあ」 悪びれる様子もなく、莉珠はさらに顔を近づける。 ――その瞬間。 耳に掛けた通信機がノイズを鳴らした。 『次の任務だ』 染は小さく舌打ちをすると、乱暴に莉珠を押し退けた。 「……ああ」 莉珠は「お」と楽しそうに声を漏らす。 淡々と説明される情報を聞き流しながら、染は濡れた髪をかきあげた。 その横で、莉珠が覗き込むように顔を寄せてくる。 「次のお仕事?」 「だまれ」 鬱陶しそうに吐き捨てる。 だが、気にした様子もなくまた覗き込むように顔を寄せてきた。 染は眉を寄せると、白い髪を指へ引っ掛け軽く引いた。 「……っ!」 「このままどうなりたい?」 無理やり距離を離すように突き放す。 痛がるどころか、目を丸くしたあと楽しそうに笑った。 「……興奮してゾクゾクしちゃった」 「しね」 即答した。 『おい』 通信越しの低い声が、一段と冷える。 『誰といる』 空気が張る。その問いには答えない。 代わりに、莉珠の方へ視線を鋭く向ける。 「関係ない」 低く返す。 『染』 警告するような声。 首筋へ、冷たい感触。 ――ナイフ。 いつの間に抜いたのか、細い刃は皮膚へ触れている。 「忘れるとこだった。そういえば僕たち敵同士だもんね」 反射的に腕を掴む。 掴んだ手に、無意識に力が入る。 『……おい』 通信越しの声が低くなる。 『まさかお前』 「ああ、そのまさかだよ」 その瞬間、通信機の向こうの空気が変わる。 『そいつの容姿は』 鋭く落ちる声。 「白髪に黒い傘」 その瞬間、通信機の向こうが静かに息を飲んだ。 『……やっぱり東雲莉珠か』 「こいつなんなの」 なぜか重い緊張感。 『影祓のNo.2』 その言葉に、雨音だけが妙に大きく響いた。 「……そうか。じゃ俺がこいつを殺る」 低く吐き捨てる。 だが、その言葉に莉珠は驚くどころか楽しそうに目を細めた。 『待て。染――』 最後まで聞かず、通信機を乱暴に外すとそのまま地面へ叩きつけた。 ノイズが一瞬だけ響き、完全に沈黙する。 雨音だけが戻ってきた。 「あれ、やる気になっちゃった?」 首筋へ当てられたナイフを指で押し退ける。 「……もうすぐReaper達がやってくる。さっさと消えた方がいい」 莉珠は一瞬だけ目を丸くした後、笑った。 「もしかして逃がしてくれる感じ?」 その言葉が妙に癪に障った。 濡れた幹へ鈍い音が響く。 逃げ道を塞ぐみたいに、そのすぐ横へ腕を叩きつける。 雨に濡れた白髪が、触れそうな距離で揺れた。 「いや」 ゆっくりと口角をつり上げる。 「ほんとに俺がお前をいつか殺ってやる」

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