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「僕のことを想って、言おうと思っても言えないんでしょう? そう思うだけでも嬉しい。だからね、無理して言わなくてもいいんだよ。言いたくなったら、言ってもいいから」
「·····葵人」
揺れていた瞳を伏せた。のは少しの間だけで、すぐにまた目が合うと、筋張った手に掴まれた。
「·····ダメだ。·····その前に、キス、してもいいか·····?」
「·····ふふ、いいよ」
グイッと葵人の手をどかすと勢いのまま唇を重ねられた。
少しばかり力が加わったのを感じ、そのまま押し倒されるのかと覚悟をしたが、葵人が怖がると思ったのか、葵人の後頭部に手を添え、唇に触れるだけにとどまった。
こちらとしては舌を絡めるぐらい激しいキスがいっぱいしたかったが、仕方ない。
少し嬉しそうな顔をする碧衣が唇から離れるのを見ながら、内心残念がっていると、「あのさ、葵人」と呼ばれた。
「·····夏休みだし、気分転換に祭りに行かないか?」
恋人なんだし、夏なんだし、そういうところに思い出作るのは当たり前なのだろう。
が、十七歳の誕生日から部屋に幽閉されたある日、兄と窓の景色を見た際、知らず知らずのうちに涙を流したせいで、兄に遊びという名の『お仕置き』をさせられ、外に出ることが怖くなった。
今も思い出すだけで手が震え、もしかしたら恐怖で怯えている表情をしているかもしれない。
そうだと思ったのが、「·····わりぃ、今の話は無かったことにしてくれ」と気まずそうに顔を逸らし、立ち上がろうとしたからだ。
そんな顔をする碧衣を見たくない。
「待って!」
シャツの裾をぎゅっと掴む。
まだ震えているが気にしている場合じゃない。
「僕があんなことを言ったクセに結局、碧衣君をそんな顔にさせちゃった·····。本当はね、お祭りにも行きたいんだ。碧衣君と沢山の楽しい思い出を作りたい。·····だけど·····」
西野寺家に居候と決まった当初はかなり酷かった。
碧衣の父親に知りたかった事実を聞く時、碧衣の早まる鼓動や温もりのお陰か難なく出られたのだが、一人で出ようとした時、動悸が早まり、汗がびっしょりと出て、過呼吸までなる程だった。
そして、頭の中に響く、兄の言葉。
そのせいで碧衣のことが兄に見えてしまい、『遊んで』貰おうとしていた。
今は多少の震えは出るものの、玄関までは行けるようにはなっていた。
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