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そんな状態の葵人を、外に行かせるのはかなり無理に等しかった。
震える手をやんわりと離し、取った碧衣はしゃがみこんで、「葵人」と優しく声を掛ける。
「俺の家の敷地内に小さな神社があるんだが、そこで、黒岩さんや使用人達が屋台をやってくれるんだ。そこなら、どうにか葵人が行けると思ったんだが⋯⋯」
言葉足らずで悪かった、と眉を下げる。
ああ、またそんな表情をさせてしまった。つられて自分も同じような表情をしていた。
「⋯⋯ううん。僕が悪いの。僕の意思が弱いから、どれだけ黒岩さん達が気を遣ってくれていても、踏みにじってしまう」
「違う。葵人は頑張っている。一人で玄関まで行けただろう? それに今回は、俺とずっと一緒だ。独りじゃない」
ハッと息を呑んだ時、涙腺が緩んだ。
それを悟られたくなくて、その言葉に甘えたくて、胸に顔を寄せた。
少々驚いたらしい碧衣の小さく上げる声が上から聞こえたが、やがて、髪に触れるか触れまいかの手つきで撫でてくる。
「⋯⋯碧衣君」
「ん?」
「お祭り、行きたい。一緒に行ってくれる?」
「当たり前だ。だが、無理をするんじゃねえぞ。行けそうになかったら、言えよ」
「うん。⋯⋯ありがとう」
そうして、そのまま葵人の気が済むまで碧衣に撫で続けてもらった。
その安らぎに浸りつつも、少しずつ出てくる緊張と不安に、無意識に碧衣のシャツを掴んでいたのであった。
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