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10.※攻めキス

「⋯⋯お前が、あいつの話をするから⋯⋯っ」 「⋯⋯あいつ⋯⋯?」 それって、兄さんのこと⋯⋯? そう言うが前にまた唇を塞がれる。 むしゃぶりつくかのようなくちづけにまたあっという間に頭がふらつくほどに呼吸が乱れた。 やっと唇を離された時は、「ぷはぁ」と声を出していた。 「お前、どうしてあんなヤツの話をするわけ⋯⋯? あんなにもヒドイことをしたヤツのこと、まだ好きなわけ⋯⋯?」 「⋯⋯ぁ⋯⋯え⋯⋯と⋯⋯」 かなり怒っている碧衣の前で完全に萎縮してしまった。 ずっと当たり前のようにそばにいた、兄。 葵人が何をしようが怒らず、泣いていたら、「どうしたの」と頭を優しく撫でてくれて、そんな兄が大好きだった。 いうなれば、兄の方が断然葵人といる時間が長く、どうしても兄の話が出てしまうのは当然だった。 あんなしきたりがなければ、今でも兄と仲の良い兄弟が築けていた。 けど、碧衣はそんな兄のことが大嫌いだった。碧衣からすれば、全くもって面白くもない話なのだ。 それは、いわば、嫉妬。 「⋯⋯おい、何がおかしいんだよ」 「だって、僕のこと、そんなにも想ってくれているんだなって、思ったら、つい⋯⋯っ」 「おも、想って⋯⋯って」 動揺しているらしい、悲鳴を上げていた手の拘束が緩み、その手を取った。 「ねぇ、碧衣君。そんなに僕のことを想ってくれているのなら⋯⋯口だけじゃ無くて⋯⋯」 下腹部辺りに手を当てさせる。 「ここにも、直接伝えて?」 慈しみにも似た微笑みで、小首を傾げてみせる。 「葵人っ、お前また、発情しているのかっ」 「発情⋯⋯? ううん、お腹も痛くないし、身体も熱くないよ?」 兄との婚姻の儀式の朝から疼いていた下腹部。それは、下腹部に桜の木のような刻印が浮かび上がり、それが浮き出ている間は、触れた対象と交わりたくて仕方ない衝動になる、らしい。 らしい、というのは、その間は葵人本人は何も憶えていないからだ。 それはそれで、自分の意思とは裏腹に何を口走っているか分からないので恥ずかしく、本人が知らなくてありがたいようなそうでもないような。

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