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第2話 雨

「雨ですね」 何気なくを装って彼の席に近づき窓の外を一緒に見てみた。バタバタと音が鳴る強めの雨だ。この頃は季節柄か、ゲリラ豪雨が多い。 「そうですね。濡れて帰るしかなさそうです」  小雨ならいいかもしれないが、こんな雨、向こうの通りに行くだけでもびしょびしょになるだろう。 「傘、貸しましょうか?」 「悪いですよ」 すぐに手を振って断られた。 「店の置き傘ですし、こんな雨で貸さない方が悪いですよ」 「それでも……」  切れの悪い返事だ。人に貸しをつくるのが苦手なタイプなんだろうか。 「ちょっと待ってください」 携帯で雨の予測を調べるとあと30分ほどで止むみたいだ。 「じゃあ、ここで止むまで雨宿りしてもらってもいいですよ。30分位で止むみたいなんで」  男は腕時計を見ている。俺も携帯の時計を確認した。もうすぐ三時を超える。 「それも迷惑でしょう?」 「いや僕は片付けをして、昼ご飯を食べてで、まだ帰らないんで、平気です」 「あっ、確かにいい匂いが、……こげくさい?」 「やっべ、」  ハンバーグを火にかけていたのを忘れていた。慌てて止めてハンバーグをみる。煮込みのソースは若干焦げたが肉自体はセーフだった。 「すみません、話しこんじゃったから」 「いえ、これぐらいなら大丈夫です」 鍋からハンバーグをだして皿に持った。残った野菜やスープも適当な皿に用意して、見栄えが良くない今日のAランチが昼ご飯だ。 「おいしそうですね」 「少し食べます? あっ、すみません食べたばかり、いや、それに、ヴィーガンでしたか?」 「いえ、そういうわけじゃ」  男は少し苦笑して否定する。ヴィーガンじゃなければなおさらCランチは珍しい。 「いつもCランチですよね、健康に気をつけてとか?」 「別にそういうわけでも、いや、今はあまり運動もしないので食べる量は控えてはいるんですけどね。知り合いにヴィーガンがいて、どんなものかと、シェフはどうしてヴィーガン食を? なにか思い入れが?」  ランチだけの一人の店でシェフは少し恥ずかしい。 「深い思い入れはないんです。女性がターゲットなんで健康食としていいかと。僕自身は肉も魚も普通に食べますし」  今日のハンバークは牛と豚のあいびきで、B定食はサーモンのピカタだった。どっちもおいしい。 「そうか、特に思い入れはなかったのか」 「なんか、すみません」 「いえ、そんなの自由なので。ちなみに、ヴィーガンについてどう思います」 「ヴィーガンの思想は尊いと思います。でも肉食動物がいるように、人間は肉を食べることが出来る機能があるから、食べてもいいとも思います。残すとか、健康に及ぼすぐらい食べるとかは駄目だと思いますけど、適量食べるぶんには。いろんな主義主張があるから個人的な主張ですけど」ヴィーガン食にそこまでこだわりがあったわけじゃない。縛りがあるほうがレシピを考えるのも面白そうだとか、そんな軽い気持ちだ。この人がヴィーガンだったなら怒られたかもしれない。「料理自体はヴィーガンの人がおいしく食べれるようにちゃんとつくってますし、こだわっていますけど。どんな主義志向、立場でも、罪悪感なくおいしいって食べられたら、それがいいと思います」 「そうですね」  男は微笑んだ。大人の男らしく控えめな微笑みだ。誰にでもする愛想だとわかっているのにときめく。

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