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第5話 いっぱい食べな

「すみませーん」  玄関から声がした。 「紺谷(こんたに)だ」 渋川さんが鍵を開けに行き、カランカランと深夜に似合わない元気な音をベルが立てる。 「携帯忘れちゃって、渋川さんまだいて助かりました」 元気な音に見合った若者が入って来た。今年20歳になったバイトの紺谷君だ。 「紺谷、バイト入ってたの昨日じゃなかったっけ」 「そうなんですよ。なくてもいけるかなって明日のシフトまでいっかと思ってたんですけど、明日昼に電話する用事あったの思い出して」 「ふつう、すぐに取りに来ない? お前それでも今どきの若者かよ」 「やーー、案外大丈夫っすよ」  紺谷君は従業員ロッカーに向かって、戻ってきたときには携帯を片手にしていた。そのまま帰るのかなと思いきや俺の前で立ち止まる。 「知花さん久しぶりっすね」 「そうだね。ほんとにバイトではあわないもんな」  紺谷君がいないときに俺がシフトにはいってるので、あまりかぶることはない。 「それがもう残念で! 今日は知花さんいたってことは、まかないまだありますか?!」 あまりかぶらないけど、紺谷君は俺というか、俺の料理が好きみたいでえらくなついてくれている。 「ごめん食べきったわ」 渋川さんが空になった皿を指さした。 「えぇーー、ってかそれいい酒じゃないですか。ちょっと渋川さんずるくないですか?」 「なんでまかない食ってずるいんだよ。しょうがねぇな、かわいそうな紺谷のためになんかつくるって、知花が」 「やったーー!! ごちです!」 別に言ってないけど、料理することは好きだし、こんなに嬉しそうならつくりますとも。紺谷くんは絶賛忙しい就活中の専門学生で、俺の料理を好きだと言ってくれてるが、店に食べに来ることが時間的に難しいともきいているし。 「なにがいい?」 「なんでも!」 なんでもが一番難しいけど、彼はほんとになんでもよさそうなのでその回答も苦じゃない。 「せっかくあいてるお酒があるし、これにあうのにしようか?」 「駄目だ。紺谷、酒飲めねーから」 「だから、飲めるようになったって言ってるじゃないですか!」  渋川さんがちゃちゃを入れるのに紺谷君は食らいついている。愛想も元気もいいので紺谷君のことを渋川さんがえらく気にいっているとは前から聞いていたけど、たしかにきやすそうだ。  まだ渋川さんには彼の話が話したりなかったのだけど、ただれきってるホモのおじさんの話を好青年な若者にきかせるわけにはいかない。 「はいよ。いっぱい食べな」 手早く作ったのは中華風の野菜炒めだったけど、紺谷はおいしいとたくさん食べた。

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