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第10話 変な間

 次の日は定休日で店は休みだった。連絡を取ってお昼前に店に行くと、直哉さんはすでにいた。ゆめじゃない。 「こんにちは、わざわざきてもらってすみません」 「こちらがもらうんだから、いくらでも出向くよ。暇だしね。こういう出かける用事ができるのは逆にありがたいぐらいだ」  彼はいつもどおりシャツとワークパンツというシンプルな装いだ。いつもは黒いナイロンのボディバッグを背負っているけど、今日は珍しくキャンバス地のトートバッグだった。  並んで歩くと少しだけ直哉さんの方が背が高い。いつもそんなに距離がちかくなることはないから、横に並んであるくだけでうれしい。 「知花君も店から家近いの?」 「そうですね、歩いて10分ぐらい」  知花君とやっと呼んでもらえた名前がくすぐったい。 「じゃあ、ご近所さんなんだね。うち反対側だけど」 「そうなりますね。えっと美濃さんは、南のほうなんですね」 「……そうだね」 少し間があく。いつも余裕がある彼にしては少し変な間だった。あまり住所は特定されたくないということか。 「南の方の交番の近くにバッティングセンターあるでしょ。俺たまに行くんですよ」 「あー、ある。うちそこから近いけど行ったことないな」  続けて聞いたら、それにはすんなり答えて、そこから地元トークになった。さっきの変な間は気のせいだろうか?  とりとめのない会話をしているとすぐに家に着く。1DKのアパートは多少古いがリノベーションが入っているので内装は綺麗だ。なにより、キッチンが新しく広めなのが決め手だった。 「美濃さん、どうぞ、そこ座っててください。なにかのみます?」 「あぁ、ありがとう」 彼は少しとまどった様子で答える。やっぱり今日は少しおかしい。  お茶を入れてダイニングテーブルに座ってもらった。  ダイニングには広めのダイニングテーブルを置いて、それも調理台のように使っていた。彼の対面に立ちドレッシングの試食をつくる。豆腐を小さくきって木のプレートに並べていき、何種類かあるドレッシングをかけていく。彩にトマトと水菜をそえた。すぐにできたけど見た目はいい。彼には試食でも料理に関してはできる男だと思われたい。 「どうぞ。食べてみてください」  キッチン用品を片付けて、自分も座った。

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