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第12話 訳あり

「コーヒー飲みます?」 「ありがとう。知花君は料理人だけあってとても気がきくね」 「そうでもないですよ。美濃さん、ミルクと砂糖いらないですよね」  彼はいつも店でブラックを頼むけど一応、呼びかけた。 「えっと、そうだね、いらない」  彼は少し戸惑う。やっぱり何かが変だ。ふとした時に、違和感というかよそよそしい。  やっぱり家に呼んだのは無理やりだったか。ドレッシングなんて店で渡せばよかったのに。ぐるぐるしながらも、コーヒーを出す。 「やっぱり図々しかったかな?」  なぜか彼はこっちを伺いみてる。それはこっちのセリフだ。 「いえ、こちらこそ」 「じゃあ、お互いに気をつかってただけか」彼はコーヒーをひとくち飲む。「それか俺の方がぎくしゃくして、気をつかわせたかな。ごめん。ちょっと今日うわのそらだったから」  本人から自己申告だ。話す態度から俺に非がある感じではないけど、おそるおそるきく。 「なにかあったんですか?」 「ないんだけど、ちょっと苗字が訳ありで、よければ直哉と呼んでもらえると嬉しい」 まったくおもっていない角度だ。そんな苗字で訳ありなんて、親ともめてる? この年で? それ以外には婚姻関係意外ありえない。 「お嫁さんともめてるとかですか?」 「そういうわけでもないけど、まぁ、そう思ってもらっても構わない。なんというか、すごい違和感があって。よくしてもらってるのに、いろいろめんどくさくて悪いね」 「ぜんぜん」  なんとか、手をふって答える。お嫁さんがいることが確定されてしまった。でも、訳ありとは? なんてどんな訳があっても、俺とはどうにもならないのに、頭のなかでいろんな感想がからまってる。 「そうだ、よければこれ」  ショックがおさまりきってないのに、直哉さんトートバックから紙袋を出した。そのまま紙袋を差し出される。  開けるように目線で促されたので、中を覗くと、瓶が入っていた。テーブルに取り出した細長い瓶の中には、いっぱいの花。 「ハーバリウムだ」 「若い子はやっぱり知ってるんだね。食のプロに食を渡すのは気が引けて、何がいいか悩んだんだけど、これなら手をくわえなくても長く楽しめるから、若い子でおしゃれそうだったから、部屋にも違和感ないんじゃないかなと。花は嫌いじゃない?」 「好きです。めっちゃおしゃれでうれしい」 「なら、よかった」 「お嫁さんの受け売り?」

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