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第15話 ほっとけない
「まっ、離婚とかだと確かに聞きづらいよな。でも知花、結婚してるところ狙ったら不倫になるぞ。そこはっきりしとかないとややこしいだろ」
「俺も不倫はいやです。でも男同士で上手くいくわけないから、結婚しているってことで逆にあきらめついてよかったかもしれない」
「おまえ前はどんどんいってたじゃん」
「渋川さんと働いてた旅館の時は婚約者がいるなんて知らなかったんです」
ここに来る前に働いていた旅館でできた相手は、俺から好きになっておしたけど、そういう中になったのは合意だった。だけど、後から婚約者にばれて、あることないこと風潮された。さらに相手が女将の縁故だったのも逆風だった。婚約者がいることも、女将の縁故だったことも俺は知らなかったけども、田舎の旅館でみんな寮に住んでいる環境ではとても働き続けることはできなかった。
「でも落とせたんだろ。次も落とせるかもしれないじゃん」
「そうやって落とせてもすぐに破局するんです。燃え上らせた熱はすぐに冷めます」
思えばそういうのが多かった。直情的に好きになってそのままアタックして、幸か不幸かそのまま成功することもあったけど、向こうはすぐにさめる。それで俺もさめればいいけれど、俺の火はなかなかしぶとく燃えている。
「なんか母性? 父性? に訴えかけられるって。でも、やっぱこいつ大の男じゃんて途中で気づくんだって。おかしくないですか? そんなの最初からわかってるでしょ。俺見た目ばりばり男だけど? というか別れる前に何回寝たと思ってるんだよ」
「知花ってなんていうかほっとけない後輩? みたいな、それがかわいく見えるんだろうな。現に俺もほっとけなくて、お前に声かけて昼間開けさせてんだし」
「えっ、渋川さんも俺狙いです?」
「ねーわ。もうすぐ結婚だって言ってんだろっと、もうこんな時間か」
時計を見ると日が回ろうとしていた。
「あっ、じゃあ、これ、アンケート返します」
手元においてたバイトのアンケートを返却した。
「なんかいいのあった?」
「この紺谷君のアイデアいいと思います。最近、紺谷君とシフトかぶる日増えたけど、渋川さんが紺谷君入れたいっていうのわかります。手際もいいし、いいと思う」
「そうだろ。家の都合で昔から料理してたんだって。えらいよな。よかった。じつはあんまり合わないんじゃないかと思ってたんだ」
俺は実は人見知りで好き嫌いあるタイプだから、あわないというのはわかるけど、紺谷くんは誰とでも仲良くできそうな感じがする。
「なんでですか?」
「なんか俺から見て、似たものどうしだなと思ってたから、同族嫌悪的な?」
「にてないと思いますけど」
「そうか? 明るくて元気でコミュ力高そうだけど、実はあんまり人に甘えないというか壁しっかりめで、みため大雑把そうだけど、すげぇ細かくて繊細なところとか?」
俺が仮面コミュ強というのが、渋川さんには見破られているが、紺谷君も同じタイプというのが意外だ。
「意外。見えない」
「紺谷、知花と料理抜きにしても仲良くなりたいって言ってたから、今度、飲みに行ってあげてよ。それでちょっとでも、うちで決めるように後押ししといて」
まぁ、俺はしょせんバイトなのだけど、オーナーには世話になっているので協力はしたい。それに向こうが仲良くなりたいと言うのなら、こちらから誘うのに問題はない。
「わかりました。連絡してみます」
「紺谷君と接するとどうして知花が母性くすぐられて、すぐに捨てられるのかわかるかもよ?」
「そのわかり方は嫌なんですけど、似てないし」
「まっ、飲みにはいってやって」
「はい」
俺は素直に返事した。
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