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第16話 ぐれてた
専門の二年生なんて忙しい盛りだろと思ったけど、紺谷君はすぐに日を開けてくれた。どこかに食べに行くのかなと思ったら、いつも食べさせてもらっているので今日は自分が作るとのことで家にお呼ばれした。
出されたのはこじゃれたものではなく、煮物に野菜いためと、から揚げに炊き込みご飯と家庭的な夕ご飯というテイストだ。
「どうですか?」
「おいしいよ」
全部、仕事と家事を担っていたら時短されるような手間がかかっているのが分かった。店でのまかないは俺がいれば俺が片手間に作るので、紺谷君のまかないを食べたことはない。調理補助として料理をつくっているのは見るけど、ちゃんと料理をたべるのは、今日が始めてだ。アンケートのレシピや料理姿をみていたので、センスはあるしおいしいだろうとは思っていたけど、実際、ちゃんとうまい。
「時間かかったんじゃないの?」
「そんなですよ。でも知花さんに食べてもらうなんて、もう試験みたいなものだから、全力で作りました」
「俺ただのバイトだよ。そんなおおげさな。でも、なんでこんなメニューに?」
『PASS』は創作で洋風和風中華などのテイストが濃いメニューもあるが、一応フレンチだ。
「メニューっぽいもの作ったら、本当に試験になっちゃうじゃないですか。今日は親交を深めたいなという思いもあったので、親交がふかまりそうなメニューにしてみました」
料理にむけて両手をひろげる紺谷君は笑顔でとても人懐っこい。
「たしかに学生時代の友達の家にきた感じかも。俺ぐれてて、ろくな友達もいなかったから、エアーの思い出だけど」
「ぐれてたんですか? 予想できます」
「そこは予想できない、だろ」
「本気で思ってます?」
からあげをほおばりながら二人で笑いあう。こうして年上にもフラットにからんで距離を詰めるのが彼は得意で、あっというまにオーナーをとりこにしてしまった。だけど、上下関係がしっかりしている料理長と話しているときは真面目モードだったので人は選んでる。
「でも、俺もちょっとぐれてたんで、一緒ですね」
「そうなんだ」
紺谷君は「おかわりどうぞ」と土産で買ってきたビールや酎ハイを冷蔵庫から出してくれた。お互い新しいお酒のプルを引っ張る。しっかりと冷えた酒がのどを潤す。職場の人間と飲みの席で仲を深めるというのが、実は好きでなかった。ゲイであることを隠してきたので、自分が余計なことを言うのがこわかったし、いろんなところで嘘をつくまではいかなくても話を隠さないといけないのも面倒だ。普段は黙って聞き役にてっしてやりすごすけど、たまに自分は暴露したのだから、お前もなにかをさらせと、勝手に話したくせに理不尽なやつもいてしんどかった。
紺谷君はどうでるか。10ちかくも下の子を警戒するのはなさけないけど、この子は渋川さんのところに就職するかもしれないから、長いつきあいの可能性もすくなくない。
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