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第17話 技術と相性

「小学校の終わりの頃、母さんが亡くなって、それから父さんと喧嘩しちゃって」  重い話だけど、紺谷君の話し方はフラットだ。まだ感傷的になれないくらい傷が深いのか、それとももう過去のことと決別してるのか読みとれない。 「夕飯が母さんが病気をしてから、宅配弁当でそれが体にいい系の、そういうのあるじゃないですか、たくさんの品目でこれを食べれば大丈夫って。でも小中の男子からしたら、味付け薄いし、肉も揚げ物も少ないしできらいだったんですよね。それで母さんが死んでからは、こっそり捨てて、コンビニとかで買って食べてたんですよ。でもすぐお金なくなって、髪切るとか、靴買うとか父さんにお金ねだってたら、おかしいって気づかれて、それで、弁当嫌だって言ったら、家政婦をやとったんです」 「すごいな」  その方が楽だし、おいしく健康的というのは納得できる。仕事もしているだろうし、嫁に先立たれて家事が手に着かないというのもわかる。でもなかなか思い切った行動だ。料理をしない親というのに、まだ世間の風当たりはある。紺谷君の言い方だと、父親は料理をいっさいしないようだ。よっぽど不器用な人なんだろうか。紺谷君を見てると父親がすごく不器用とは想像しずらいけども。 「それで食べた家政婦さんのご飯が、当たり前だけど、めちゃくちゃおいしかったんですよ。そういえば昔、母さんが作った料理ってあんまりおいしくなかったなって気づいて、そんなこと思っていいのかとか、なんかいろいろ複雑で。まぁ、そのナイーブな気持ちは家政婦さんの雇ってるお金をきいて、自分で作るからって父親にお金せびってながれたんですけど。でも、片隅にはそれがずっとあったんです。それが知花さんがこの前、おいしい料理は技術と相性って言ってたの聞いてなんかちょっと楽になったっていうか」 紺谷君はお酒を傾ける。 「それだけです。それがなんかちょっと言いたくなっちゃいました。あと、渋川さんが俺のことめちゃくちゃいい風に言ってると思うんですけど、別にそういうんじゃないです。こづかいのためだから」 「別にいいんじゃない。料理がお金のためって普通のことだよ。渋川さんに言っても、逆に案外かわいいって株あがると思うよ」  俺ですら紺谷君のことかわいいって株が爆上がりなのに、渋川さんなんてこんな申し訳なさそうな顔されたら犬のごとくわしわし撫でまわしてしまいそうだ。

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