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第19話 ため息

 あれから数日が経ち紺谷君とシフトがかぶった。前のなつきようからすると距離は感じるが、働くうえでは不都合がない態度で、まかないもふつうに食べていた。 「ごめん。しゃべりすぎた」 それでも、人から見るとやはり前とは違いぎくしゃくして見えるのだろう。渋川さんには先に事の顛末をメッセージで送っていてそのときも謝っていた。 「いや、だいぶぼかして話してたってことはわかってます。ふつうに俺のミスです」  旅館のことはたいへんってことを言いたかったんだろうし、ハーバリウムを実際に置くにあたって、そのエピソードをしたっていうのもわからなくはない。 「ちょっと探り入れたんだけど、気持ち悪いってわけではないし、それがこの先のことに影響することはないと言ってくれてる。ただちょっと時間をおきたいって」 「はい」 「俺から見ても本当に無理って感じもしないし、様子みるしかないな。時間が解決するだろ。困ったことがあったら、また言って」  渋川さんは俺の背中を軽く叩く。  渋川さんは本当にいい人だ。それだけに大きくため息をはく。たしかに俺が見た感じも、ただ混乱しているという感じだったけど。壁があるタイプはとりつくろうのがうまい。せっかく、この店にたいして恩をかえせると思ったのに。やっぱりゲイってマイノリティだし、感じ方は人それぞれだ。渋川さんみたいになにも気にしないという人間も多いけど、料理長が意味が分からないと口にしているのも見たことがある。  ふと、思い人が頭をよぎる。あの人はどんな風に反応するだろう。紳士的な人だ。ばれても普通をとりつくろってくれるだろうけど、店に来てもらえなかったらそこで関係は終わる。  その程度の関係性。つらいけど、そこからの発展は問題がありすぎて、そもそもありえない。うまくいったとしても、どうせ捨てられる。  もう何度も自分の中でしている否定をし直し、ため息をついた。

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