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第20話 暇なとき

「こんにちわ」 「いらっしゃいませ」  心地よい低音が耳を通って自分の中に入ると疲れが吹っ飛ぶようだ。今日は朝から忙しく、そんな日に限ってバイトも休んだりして、へとへとだった。ピークが過ぎると嘘のように客足が鈍くなり、さっき最後の客が帰ったと同時に直哉さんが入ってくる。ベストタイミングだ。  いつも通りCランチを出して、彼が食べるのを見ながら、閉店用意を軽くする。  直哉さんは食べ終わると、俺がひまなときはコーヒーをおかわりして、俺とおしゃべりしながら閉店まで過ごしている。これは自然と直哉さんから始めたことで、一度コミニケーションがとれると距離をすっと縮めれる人みたいだ。 「直哉さんって、暇なときなにしてるんですか」 「なにしてるんだろう? ぼーっとしてるね。とくに趣味もないし、テレビとかネットとかぼんやりしてる。やばいなとおもいつつ。春過ぎに会社やめてしばらくは見ようと思ってた映画とか、ためていた掃除とかを消化していたんだけど、それも次第になくなって。そういえば趣味とかまったくなかったなって」 「ゲームとかもしないんですか?」 「しないな。興味はあったんだけど、子供の頃はどうしても下の兄弟と取り合いになるから、逆に触らないようにしてて、それから縁もなくて」  どうやらお兄ちゃんのようだ。とてもしっくりくる。懐がでかくてあまえやすい。 「知花君はゲームするの?」 「ちょっとだけ。対戦が好きなんですけど、友達いなくてNPCといつも戦ってて」 「友達いないの? 意外」 「そうですか? 俺こっちきて三年とかで、大人になってから友達ってなかなかできないですよね」 「確かにね。俺も友人はいないな。でも君は若いから今からでもどうにでもなるんじゃない? がんばりなよ」  直哉さんは俺にくったくなく笑いかける。この人は俺を20そこらと思っている節がある。そして必要以上に年よりぶる。 「そんな若くないですよ。直哉さんだってまだ若いでしょ? そんなに変わらないと思います」  直哉さんはびっくりと目を開けたあと自分で自分を指さした。 「俺、いくつと思ってる? ふつうにおじさんだよ?」 「いくつなんですか?」 「40」 「あっ、でもそれぐらいと思ってました」 「思ってて若いって?」 「はい。まだまだこれからじゃないですか」 「まぁ、元気なそういう人もいるだろうけど、俺はもうそんなに気力ないな」  ふしぶしに感じるこのもう廃れたおじさんムーブは何なんだろう。離婚? とか人生経験がいろいろあったのかもしれないけども。それが彼の醸し出す大人感なのかもしれないけれど。

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