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第21話 友達

「もっと楽しみましょう。もっと遊びましょうよ」 「そういう元気がないから、おじさんなんだよ」 「俺、直哉さんがおじさんぶるの嫌です。こんなかっこいいのに」 「かっこいい?」 「はい、かっこいい大人だなって思ってました」 「そう、それは素直に嬉しいな。俺も、君の事とてもかっこいい人だと思っていたから」  かっこいいと言われたのが、頭に充満して一瞬、思考が停止する。 「そういうことじゃなくて」  そうだ。嬉しいとかで喜んでそれで終わりじゃない。いつも俺ばっかしが嬉しがっている気がする。そうじゃなくて、どうにか直哉さんにまだまだ楽しいことがあると教えたい。 「そうだ、俺いますよ。遊ぶ人いないなら俺、誘ってくださいよ。俺も友達いないから、だから、えっと、つまり、その、友達になってくれませんか」  こんなこと言いたかったわけではない。でも直哉さんに前を向いてほしかった。事情はわからないけど、彼の余裕ある大人な振る舞いはもしかしたら、諦念からくるのかもしれない。なら、そのかっこよさはいらない。はしゃいだ子供っぽい姿を見ても、俺が直哉さんを好きなことはかわらないから。 「こんなおじさんでもいいの?」 「友達に年は関係ないと思いませんか」  友達になりたいなんて露ほども思ってない。いや、思ってる。だってたぶん恋人にはなれない。でもどんな形でもいいからそばに居たい。客と料理人という他人の関係からすこしでも歩み寄りたい。もっと彼のこれからの人生に介入したい。 「そんなものなのかな、友人という友人が学生時代以降いないから、大人はもっと自由なのかもしれないね」  直哉さんは特に否定もしない。  コーヒーを飲む。直哉さんがコーヒーを飲んでいる姿が好きだ。大きい手に白いマグ。静かに傾けてゆっくりと飲む姿はとても行儀がいいのに、なぜか地味にならない粗野さがある。無差別にかっこいい。見た目が抜群に好み。でももうそれだけじゃない。 「俺はずっとひましてるから、君が良ければぜひ」 「ほんとですか?」 「うそつかないよ。いつでも誘って」  直哉さんは優しいから、あわれな年下に手をさし伸ばしているだけ。この人は断らない。 これから遊びに誘ったとして全部直哉さんはいいよと微笑んで受け取ってくれるだろう。  きっと嬉しくてつらい。でも好きな人に楽しく生きてほしいから、自分に手助けできるなら、 「絶対、誘います」  そういうと直哉さんはやっぱり微笑んだ。

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