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第23話 初恋

「直哉さん、コーヒーにあいます」 「ふふ、うれしいよ。はじめはかっこつけたくて飲みはじめたから」 「そんな時期が?」 「あるよ。十代とか、好きな女の子に大人っぽくみられたいとかね」 「どんな人が好きだったんですか」 「近所の年上のおねぇさん」 「初恋の人?」 「そうだね」 「告白した?」 「したよ」 「うわーーー! うまくいきました?」 聞きたくない思いもあるけど、初恋となると甘酸っぱくて、でばがめした思いの方が勝った。 「それがいったんだ。当時はめちゃくちゃ舞い上がった」 「えーー。うそーー。いくつですか? デートした?」 「中一だね。デートもしたね。近くに温泉街があったから土産物屋を冷かして、でもお金がないから、結局いつも近場の公園か、公園の近くにある無人の灯台まわりを散歩してた」 「無人の灯台で、海をみながら? ロマンチックじゃないですか」 「ただ単に田舎だったからだけど、そうだね。……ませた子供だった」  基本、丁寧な言葉遣いの直哉さんにしてはとげのある言い方だ。幼い時の恋だと、本人にしては黒歴史みたいなエピソードがいっぱいあるのかもしれない。 「うまくいかなかったんですか?」  そう聞くと、直哉さんは微笑んだ。あまりにもやさしくて、その時、いかに幸せだったのかをものがたっていた。でも同時に曖昧にぼかしているところに、痛みを感じる。 「もうその人とは会ってないの? 年月たってると意外と思い出話にできたりしない?」  中学時代の恋人。二十年以上たっているとなると、よっぽどどろどろの別れ方をしないかぎりは懐かしく話せそうな気がする。 「俺が高校出てから地元にもどってないし、戻る予定もないから」 「出身ってどこなんですか?」 「出身は石川県だね」 「石川、行ったことありますよ。俺、高校出た後、リゾートバイト転々としてて、石川の温泉でも働いていました。石川にいたときはバイク買ったばっかだったからよくドライブしてて、わりとおぼえてます」  高校を出てから、しばらく日本各地のリゾートを転々とバイトしていた。記憶が浅い土地もあるけど、比較的覚えている地域だ。石川は温泉街がいくつもあったっけ? だいぶ近い土地にいた可能性があるんじゃないか? 「バイクって原付?」 「いや、中型です」 「すごいね。今も乗ってるの?」 「いえ、売っちゃいました。車買ったら乗らなくなったんで」 「そうなんだ。バイク似合いそうだけど」  なんとなく話をずらされた気がしたけど、具体的にどうずらされたのかわからずそのまま答える。

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