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第24話 いい人
「そうですか? 直哉さんのほうが似合いそうですけど」
「似合わないよ」
「だって、直哉さんかっこいいから、絶対似合うよ。そんでもてる」
初恋の人と実る時点で、それはそうとうモテてるやつだ。しかも中一。男女だからというのはわかるけど、成人をすぎてからやっとの思いで恋人ができた俺からするとませすぎだ。
中一から彼女がいて、そのあとにもたくさん彼女がいて、お嫁さんとはもめてるみたいだけど、次もすぐに女はできる。直哉さんと話しているとそういう落胆を節々に感じる。悲しいけどそれが暴走しがちな自分の戒めにもなっていた。
「だから、モテないってずっと言ってるのに、全然信じないな。君の方がモテるだろ?」
「全然、ほんと、駄目駄目」
「それは知花君がきっと鈍感なんだよ。こんなにかっこよくて、若くてして店を開けていて、器量と才能も愛嬌もあるのに、モテないわけない」
その顔があまりにも真剣だった。
ぐぐぐと熱がたまる。こんなの男として言われてるだけだ。別に口説かれてるわけでもない。でも、今までの彼氏に、ほぼセフレのような扱いをされてきた俺は、こうして真剣に向き合ってくれる人がいなくて、免疫がなさ過ぎた。
「大丈夫、絶対にいい人がいるよ」
いい人なんてあなたしかいないのに。嬉しさと悲しさとがテリーヌみたいにぎゅっと混ざってる。
なんだか泣きそうになったけど、自宅に二人だと逃げ場がない。
「あっ、これ」
テレビからCMが流れて来て、直哉さんがそちらを見た。十五年ぶりの新作と高らかにナレーションが告げて、大きな怪獣が口を開けた。
「直哉さん、これ好きなんですか?」
「いや、新作出たんだと思って」
「このシリーズは他の奴はみたんですか?」
ちょうどいいと話題にすぐ乗った。
「あぁ、1と2は見たけど、前の3は結局、見なかったんだ。あとから、評判はよくないって聞いたけど、新作でたんだね」
「評判、よくなかったんですか? 俺は面白かったと思ったんですけど。確かにストーリーはちょっとあれって思うところあったけど、当時にしてはCGすごくて、めちゃくちゃ恐竜がかっこよくて迫力ありましたよ」
当時は高校生ぐらいだっただろうか、友達に誘われて見に行った。映画をあまり見たことがなかったので、その迫力だけで充分楽しめた。
「なんだ、じゃあ、見に行けばよかった」
「4、見に行きます? って男二人じゃ変ですかね」
「いや、せっかくだし、行ってみようか」
提案はすぐに採用になった。デートだと頭の中ではテンション高く飛び跳ねたけど、表情に出すのはそのテンションの30パーセントぐらいに留めておく。
「たのしみです」
「俺も、映画なんてひさしぶりだから、楽しみだ」
楽しみの意味は絶対にすれ違ってるけども構わない。すぐに映画のスケジュールをみて日にちと時間をきめた。
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