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第27話 いただきます

「いただきます」 「いただきます」 ナッツの風味や日本であまりみない豆なんかも入っていておいしい。ナンもふくっらでやっぱりあたりだ。  ふたりでなんとなしにカレーをたべる。いつも行儀のいい直哉さんはナンをむしる姿さえもきれいだ。行儀のよさは育ってきた環境でつくられるぶんが大きい。もちろん後天的にも獲得できるけど、後天的に得た行儀は、ビジネス以外では発揮されないことがままある。  いいとこの子じゃないかなと思っていたけど、高校卒業と同時に家を出て、戻っていないと聞いた。少しづつ彼の背景はわかってきたけど、よくわからないことも多い。すべてを知れば仲が縮むとは考えない。どんな間柄でも秘密はあっていいと思う。だけど、それでも知りたいとおもってしまう。俺と直哉さんの間で壁を感じるからだろうか。もし俺が同じ年ぐらいの大人だったら、もとマブダチみたいになれたかな。 「これもカレーなんだ。食べたことない味だね」 「日本風のカレーしか食べてないと、とくにですよね。チキンのメニューだとたぶん知った味に近いものがでてくるんじゃないかな。直哉さんは会社辞めるまで肉食べてたんですよね? カレーは何肉派でした?」 「豚だね」 「知ってますか、カレーに入れる肉って地域でちがうんですよ。関東が豚で関西が牛。石川は関東みたいですね」 「知らなかったな。嫁も同じ出身だし牛は食べたことがないんじゃないかな」 「そうなんですね。同郷の人って、いいですね」 「そうだね」  直哉さんはお嫁さんのことに関しては口が堅いので、レアな情報だ。同郷ということは一緒にこっちまで出てきたのだろうか。高校卒業とともに出てきたと言う話だから、一緒に出てきたなら、人生の半分以上はつれそっていることになる。もし本当に離婚なら、あまりにも心理的につらいと思う。ここ数か月、直哉さんと一緒にいて分かったけども、例の大切な知り合いも、頻繁に会っているわけではないようだ。いま、この人の周りには本当に誰もいないのではないか。 「映画何時からだった?」 「あと一時間ぐらいです」 「じゃあ、コーヒー飲もうかな。知花くんは飲む?」  ふとかけられる声は柔らかい。 「飲みます」  直哉さんは何事もスマートだ。よく微笑んで情緒が乱れることがない。人当たりがよくちゃんとした大人だ。だけど、今は仕事も友達も趣味もない。だいたい一人家にいると話してる。普段、なにを考えて生きているんだろう。大丈夫なんだろうか。この人と過ごす時間が長くなってこのひとの生活も見えて来て、少し不安になる時がある。 「映画たのしみですね」 「そうだね」  おだやかに直哉さんは同意してくれる。せめて俺はこの人と一緒に少しでも楽しい時間をすごしたい。そういう意味で好きになってもらえなくても、たくさんかわいがられてる。その分、直哉さんに返したい。

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