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第28話 楽しかった
映画はおもしろかった。主人公たちは途中けんかしつつ投げ出しそうになっても結束し、怪獣はとてもかっこよく凶悪で、最後火山に遺棄するシーンは、またよみがえりそうな雰囲気もあってそれもよかった。
夕方前、解散するには早く、夕飯を食べるにも早い。
「この後、どうします。よければ、すこしぶらぶらして、うちに来ませんか。夜はうちでごはんにして、もらったお酒も溜まっているんで一緒に飲みたいです」
このまま、幸せなままデートの錯覚をぎりぎりまでひきのばしたい。
「知花君がよければお願いしたいけど、あっ、ちょっと待って」
映画館を出て併設のショッピングモールへと向かいつつ、マナーにしていた携帯を歩きながら二人してチェックする。
「携帯むきだしですね? カバーないと怖くないですか?」
直哉さんはあまり携帯をみないので、彼の携帯をはじめて見た。少し前の型のiPhoneはカバーがない割にはきれいだった。
「あんまり気にしたことないな。会社いたときは社用ばかり使っていて、自分のは使ってこなかったんだ。今でも持ち歩くのをすぐ忘れる。……ごめん、ちょっと今日、無理かもしれない」
「連絡ですか?」
「そう、ちょっと、何件もきてるから、かけなおさないと。長くなるかもしれないし」
珍しく動転しているようだけど、この人は笑顔以外の表情は抑えるので、その度合いはわからない。
「全然、今日は楽しかったです。バスですよね? 送っていきましょうか?」
「大丈夫、ありがとう。俺も楽しかった。また今度いっしょにお酒を飲もう」
やっぱり直哉さんは最後に微笑んだので、俺も笑顔で手をふって別れた。
別れた後に振り替えると直哉さんは携帯でどこかに電話をかけていた。それはめずらしく険しい表情で。盗み見るのもよくないと、視線をなんとか外す。
なにかよくないことじゃなければいいけれど。そこに踏み込むことはできなくて、俺はむりやりその場を後にした。
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