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第30話 余地がない
「手ごたえはないですね」
仲はいいけど、友達だ。どうしてもやっぱりお嫁さんの存在がある。既婚は絶対に無理だ。同居はしてないし、連絡を取ってる様子もない。離婚するのかとも思っていたけども、たまに漏れるお嫁さんの情報からは嫌いという感じが全くしない。実情がよくわからない。もし別れるとしても直哉さんに未練があるなら狙いにいったところで玉砕だろう。それに高校から連れ添ったお嫁ださんだと、やっぱり子供がいるんじゃないだろうか。離婚も子供の件でもめているのかもしれない。子供にお父さんが男に狙われてるなんて疑念を抱かせるのも嫌だ。どう考えても横入りする余地がない。
「それでも仲良くすんのつらくない?」
「つらいけど」
いつもなら、泣き落としで迫っていた。一回でいいと言ってせがんで、好きにしていいからと。そして捨てられる。捨てられた彼氏を恨んでいたが、いま思えば、俺がそもそも大切にされなくていいとせまっていたのだから、捨てられるのは当たり前だ。向こうはクズだけど、俺も落ち度がある。
「なんか、すごい大切にされてるなって感じるんです。だから自分を卑下せずに、大切にされる価値があって、釣り合うような人間でいたいなって。ただの友達はつらいけど、でもいっぱいもらってるから、いまは十分」
むしろ付き合うなんて未来がないのがわかっているからか、だれかと付き合っていた時より心地よくて安定していると思う。
「知花は尽くして邪険にされて捨てられる典型だから、相手側に包容力あるっていいことだと思うよ。これでうまくいけばな」
このまま友達を続けるのは難しくない。直哉さんが就職し暇じゃなくなってもたまに出かけたりはできると思う。優しいし断わられることはない。でも、恋人はない。どんなきっかけもない。
嫁だとか子供だとか全部なしのフリーになったとしても、あんないい男こっちに振り向いてくれない。別れたとわかったらいろんなお誘いがあるに違いない。
「絶対ないと思う。だからこれだけうまくいい関係がつなげたってのもあるし。でも、付き合えなくても、一緒にいたいし、好きでいる価値がある人だなって思うよ」
「むずかしいな」
これが下手になんのしがらみもなかったらもっと前に、暴走して迫ってたとおもう。でも直哉さんの性格的には断られるだろうな、泣き落としでワンチャンもないかな。なんて、そういうよこしまな思いはたまに出て来て、何度も封印しているけど。
「友達でいい。いま幸せだから」
片思いもなかなか楽しいし、充実している。ときめくことだけ許してほしい。言葉にするとより強くそう思えて、でも耳にはいる自分の声は負け惜しみがにじんでいるように聞こえた。
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