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第31話 お酒を飲む会
クリスマスになる前に珍しく直哉さんから約束していたお酒を飲もうと誘ってくれた。直哉さんからもらったお酒を飲む会なので会場はうちだ。
「なんか、テレビでも見ていてください」
と言うと素直にリビングでなにか見ている。一度、料理を手伝ってもらったが、あまりにもできないので驚いた。
料理をしないから調理器具を使えないのはわかるけど、野菜の種類をほとんどわかってない。緑のものは全部見分けがつかないし、カタカナの名前の野菜は見たことがないものも多いようだった。根本的に食に興味がないタイプの人だと思った。
自宅での食事も俺が口出して、今は野菜といっても緑だけじゃなく、根菜や、他にも果物と、きのこ類、大豆類も食べてるみたいだけど、前は本当に悲惨だったようだ。うちの店を進めた直哉さんの知り合いは、おいしいからというよりもなんでもいいから外で栄養あるものを食べてくれという切実な思いだったのかもしれない。
作った料理は動物性不使用のサラダとラザニアとスープ、直哉さん用のメインに大豆肉のから揚げと、自分のメインは手羽先のソテーにした。鳥がメインなのは今日をこっそりクリスマスということにしているからだ。
直哉さんは全部おいしいと食べてくれる。本当においしいと思ってくれてると感じるけど、おいしいという味覚が感情とか幸せには結び付かないんだろうな思う。それでも、ちゃんと彼のなかには吸収される。料理する人からしたら味気ない人もいるんだろうけど、俺はがっつかないできれいにたべる直哉さんの食事を見るのが好きだから満足だった。
洗い物はしてくれて、それは手早いけど丁寧だ。手先は器用だと思うから、頑張って教えたら料理もできるようになるのだろうか?
「どれ飲みます」
ローテーブルに移動してメインのお酒を並べた。直哉さんの手土産はお酒が多く、たまっていた。
「どれがいいんだろう? 飲もうって誘ったけど、俺、弱くてあんまりくわしくないんだ」
直哉さんは並べたワインや日本酒を眺めてアルコールの割合を見てる。
「じゃあ割りましょうか? 炭酸と水、コーラにリンゴとオレンジジュースがあったと思います」
「ワインとか日本酒とか割っていいもの?」
「日本酒はだいたいなんでも割れますよ。ワインも水はあんま聞かないですけど、オレンジもコーラもカクテルありますし」
「君のおすすめをくれる?」
直哉さんに少し困った顔をした後、微笑まれた。女子のモテる技じゃんと思いつつもときめく。日本酒を手に取ってグラスに入れて、炭酸で割ることにした。
「直哉さん、強そうなのに。普段まったく飲まないんですか?」
「ぜんぜん。若い時はつきあいで飲むことはあったけど、年を取ると飲めないって言ってもいい風潮になって、ことわってたね」
「何年ぶりとか?」
「いや、でも少し前に知り合いに祝事があって飲んだ。それが十年ぶりとかじゃないかな」
油断してると知り合いが出てくる。そしていつだってその知り合いの話をするときに、そいつが大切にされてるを思い知らされる。今はそんなにあってる風でもないのに、腹が立つやつだ。
直哉さんはゆっくりグラスを傾ける。
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