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第35話 その場所

「もったいないです。直哉さんこんなにかっこいいのに」 「うれしいな。でも、もういいんだ、本当に。今は君もいるし」  こんなにかっこいい人をなんで誰も見つけてあげられなかったんだろう。一人なんだろう。  いや、俺が見つけた。 「じゃあ、男はだめですか」 「おとこ?」 「女はいらないなら、男は?」 「極端だな、考えたこともない」 直哉さんは冗談と受け取ったようで笑った。その笑顔がやっぱりかっこいいのだ。直哉さんは弱っている。あきらかに弱りきっている。今じゃなくて、俺と出会ったときにはすでにもう弱っていた。でもずっとそんなの気づかなかった。いつだってスマートだったから。 「もったいない、直哉さんこんなにかっこいいのに、ひとりなんてもったいない。そんなもったいないことするなら、俺がほしいです」 「やさしいね」 意図が通じてない。通じなくていい。通じなくてよかった。とまれ。そう思ってるのに止まらない。  なんでどうして、この人の隣にだれもいないんだろう。  誰もいないなら、俺がその場所をほしい。どうしても、ほしい。  そのさみしさもかなしさも、全部、俺が埋めてあげたい。  上に乗っかった。さすがにおかしいと思ったのか目があう。  そっと服の上から腹のあたりをさわった。厚めのセーターはちゃんと洗濯されていてふんわりとしている。 「好きです。ずっと、好きでした」 目だけは開き直哉さんは驚いている。だけどなにも言わずに、俺をじっと見ている。 「だめですか、最初は一目ぼれで、そこからどんどん好きになってた。俺、なんでもします」 「それこそ、もったいないよ」 さすがに俺の行動に気づきがあったようだけど、落ち着いた調子でやんわりと断られる。こんな状況なのに余裕だ。  もう告白してしまった。もとには戻れない。  服をめくってみた、直哉さんはふしぎなものを見てるという感じで、とめられない。  ワークパンツのボタンをはずして、ジッパーを下げる。グレーのボクサーパンツがのぞいてる。 とめてほしい、とめてほしくない、それなら。いつもこうだ、いっぱいいっぱいで泣き落としての一回。これがいつもほろびの呪文なのに、断られるか、あそばれるか。どっちにしても別れのはじまりだ。せっかく男としてかっこいいとほめられて今まで対等に来たのに、ほしくてたまらなくて友達をドブに捨てて、自ら都合の良い存在になって捨てられる。 「そこからどうしたい?」  声が降る。あまりいつもと変わらない声色で、それが怖い。 「セックスしたい」

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