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第36話 どうしても
「あけすけだなぁ」
「ごめんなさい。どうしてもだめですか? 俺いっぱい奉仕して、気持ちよくするから、一回だけでもいいです。遊んで捨ててもかまわないから」
「捨ててなんて、そんなこと言わない方がいい」
「ごめんなさい。気持ち悪いですよね」
「気持ち悪くはないけど、まぁ、でも、無理だと思う」
「そうですよね」
直哉さんは冷静だった。そもそもいままで相手してきた男はだいたい性欲旺盛なヤリチンだったのだ。直哉さんにはどうしようもなく効かなかった。
「君が男性というのも、もちろんあるかもしれない、だけどそもそも、俺はEDなんだ」
「えっ?」
「もう何年も元気な姿を見てなくて」
直哉さんは自分のがついてる方向を見て困ったように笑う。
「えっ、ほんとに? 病気とか?」
「心因性のものだね。息子が産まれて嫁が亡くなって、多忙のなかで、独りでもだんだんとしなくなってて、気が付いたら、まったくで。とくに不自由してないからそのままにしてる」
衝撃だ。自分がした行為を棚上げしておどろく。
「だから、君がそうして切実に求めてくれるのが。なんていうか、なんだろう、いろんな感情があるんだけど、なによりも忘れていたものすぎて、驚いてる」
「いや、もう俺も若くないのに、なにしてるんだってかんじなんですけど」
直哉さんの淡々とした声に余計に、恥ずかしくなる。
「正直、恋愛事はもう縁遠すぎて、よくわからないんだ。自分の性癖に男もなかったから、とまどってるし、君の告白も行動も全然うけとめきれてないから、どう返事してどんな行動を起こすべきか、全然わからない」
「すみません。直哉さんは怒るべきだと思います」
俺は最低な、自分の上にのっかってきた男なのに直哉さんは誠実で丁寧だ。それがよけいにこたえた。
「俺も止めなかったし。君と俺だと力はかわらないだろうから、嫌なら跳ね除けれた。そんなしょげなくても、怒ってないよ」
直哉さんは服を正す。
「酔いも少し冷めたみたいだ。今日は帰るよ」
「すみません」
「また、店には行くから」
直哉さんは優しく声をかけてくれる。
「ありがとうございます」
だけど俺はその顔を見られなかった。
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