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第38話 大丈夫って

「べつにいいよ。紺谷くんが引っかかるところがあるなら、できるだけとりのぞきたいし」 「知花さんが悪いんじゃないんです。俺がまだ子供だから整理つかないだけで、あんまり気にしないでください。もうちょっとだけ、ほっといてもらえるとありがたいです」 「俺はただのバイトだから、そんなに誠実にしなくても大丈夫だよ。渋川さんにシフトかぶらないようにしてもらってもいいしさ」 「でも俺が社員になったらそれも難しいと思いますし、そもそも知花さんのことは、人柄も、料理もすきなんです」  渋い顔をしている。なにか事情があるんだろうなと思った。こんな顔をして謝っている。それだけで紺谷君の誠実性がわかる。 「気にしなくていいよ。ほんとに。たぶんどっちが悪いってことでもないからさ。お互いちゃんと仕事をして、それで店に貢献したらいいと思う」 「ありがとうございます。もうちょっとだけ、きいてもいいですか」 「どうぞ」  若い子のおねがいはできるだけ聞こう。最近特にそう思うのは、直哉さんの包容力をみているからかもしれない。 「いま、好きな人とは長く続けられると思いますか?」 「長く続けるも何も、ただ好きなだけだから、これからどうにもならないよ」  この前あんなことをしでかしてしまったし、もう終ってるかもしれない。自分の暴走のせいなのにもう終わってしまった可能性を考えると胸のあたりがきしむから急いで忘れる。 「そうなんですか」 「うん」 「たぶん、大丈夫ですよ」  紺谷君はなぜか応援してくれた。それが本当に複雑そうで少し笑ってしまった。 「紺谷君はやさしいね」 「そういうことじゃないんですけど」 「よければまだ軽く食べない?」  まだわだかまりが消えたわけじゃいけど、紺谷君とはうまくやっていける気がする。 「いただきます」  紺谷君は元気に返事してくれた。  俺には仕事がある。人に生きるを提供するのだから、俺も頑張って生きなくては。大丈夫。俺はいつだって暴走して自爆して、恋を駄目にしてしまう。今回の失恋はいままでよりもずっと重い。それでも、大丈夫、って言い聞かせるしかない。

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