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第45話 思い出

 車をしばらく走しらせた。途中で紺谷君は寝てしまった。よっぽど動揺して気疲れしたんだろう。ぐれたとは言っていたけど、お父さんが大好きなんだとわかった。  ナビは公園に設定していたので公園に着いた。とりあえず着いたのはいいけど、ここからどうするか。夜はまだ更けていないけど、冬であたりは真っ暗だ。探すと言ってもここ周辺ぐらいしかわからない。実家の位置がわかればそこも行けるけど、こういう田舎だと、ご近所さんに聞きまわれば見つかったりしないのだろうか。 「紺谷君、着いたよ。とりあえず出る?」  紺谷君を起こして車を出た。外は思ったより寒くてあんまり長居できないかもしれない。 「どうしようか、とりあえずちょっと歩く? 灯台の方も見に行こうか」  もう遅いから紺谷君がいいなら、温泉街の方に一泊してもいいかもしれない。店の方が休みになってしまうけど、HPに臨時休業とのせるしかない。予約はないから大丈夫だろう。 「すみません、知花さん、本当にこんなところまで」 「めっちゃ謝るじゃん、いいって、俺にとっても大事なことだよ」 紺谷君は寝て起きるとさらに冷静になったのかしょんぼりしている。  公園内を二人で歩く。たまにしか外灯がなくとても暗い。人も少なく高校生らしき制服のカップルとすれ違ったぐらいだった。 「寒いね、自販機あるから、なにか飲もう?」 遠くに明るい場所が見えて、そこを目指した。 自分たちより先に自販機で飲み物を買ってる人がいた。背が高く、姿勢がいい。見覚えのある立ち姿。 「あっ」  二人で顔を見合わせて走った。 コーヒーを手に持った直哉さんがそこにいた。 「どうしたの?」 こっちに気づいた直哉さんはとてもびっくりしている。 「そっちが!」 紺谷君が大声をあげた。急に大声を上げたからか思いっきりせき込む。 「拓海(たくみ)、大丈夫か? なにか飲む?」 紺谷君が答えるまもなく、直哉さんがあったかい紅茶を買って紺谷くんに渡した。紺谷君はそれをうばいとるようにして飲む。 「知花君もどうしたの?」 「いえ、えっと」 どう見ても直哉さんは落ち着いていて不思議そうだった。やっぱりこちら側で何らかの思い違いをしていたみたいだ。それにしてもあの封筒の内容が内容だけに突っ込みづらい。 「遺書!」  紺谷君が封筒を出して思いっきり直哉さんにたたきつけた。身体が震えているけど寒さではなく怒りからのようだとたたきつけた力の強さでわかる。 「なんでそれを? 引き出し入れてたはずだけど」 「メッセージ見てないの? 通帳忘れたから取りに行くって言ったのに、返信もないし、自分で探してたら……」 「それで見つけたのか、心配したな。それは千鶴(ちづる)、母さんの遺書だ。中身はここにある」 直哉さんは紙を一枚、取り出した。 「携帯は?」 「昨日、新幹線に忘れてしまって、今持ってない」 「俺、バカみたいじゃん!!」 紺谷君はありあまる力で大声で叫んだ。 「バカじゃないよ、心配してくれたんだろ? ありがとう、うれしい」 直哉さんは本心で喜んでいるのだろうけど、今の紺谷君には神経の逆なでではないか。 「別に父さんを喜ばせたいとかないから」思ったように紺谷君は声を荒げたがすぐに収束して言葉をこぼす「母さんの遺書があるとか知らなかった」 「遺書っていうほどのものでもないよ、ただの伝言だ」直哉さんは便箋を開けてそれを読んだ。「私が死んだ後、父と母が死んだら、あの灯台に指輪を埋めてください。これだけ。若かりし頃のデートの思い出の場所だよ。息子に知られるのは、はずかしいだろ」

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