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第48話 子供じゃない

 食べると猛烈に眠気が来た。さっきまで緊張していたのに体は現金だ。直哉さんの心の中はまだお嫁さんが大部分を占めていて、それにかわいい息子がいて俺がつけいる隙はない。 自分は何もしない、少し横になるだけだから甘えさせて、なんて眠気にも負けて欲にも負けて、自分の欲望への正直さは笑える。  このままでは本当に寝てしまう。帰ろうと目を覚ますために目の周りを軽くマッサージする。 「眠そうだね? 今日は本当に迷惑をかけた。ありがとう」 「いえ、道中、紺谷君と話したりして楽しかったです。というか紺谷君のお父さんて知ってびっくりしました」 「隠してって言われたから。でもその気持ちもわかるかなと思って」 「たしかに」 さっきの紺谷君の様子を見るとお父さんに対しての反抗期はまだ抜けだせていないらしい。 「でも、気が楽になったよ。ずいぶん仲良くなってしまったから、絶対どこかでばれるだろうし、どうしようかと思ってたんだ」  直哉さんはいつものように微笑んでくれる。それが前までの関係みたいでつごうがいいのに安心した。 「紺谷君、すごく心配してましたよ」 「そうだね。あんなにいっぱいいっぱいになるなんて、悪いことをした」 「お父さんのことがすごく大好きなんだと思います」 「ふしぎだね。俺も妻もかけおちしたものだから、子供が親を好きっていうのは絶対じゃないと思ってた。子供に愛されるなんて思ってもなかった。ましてやあの子は愛敬があってたくさん人に愛されてるから、親なんていなくてもと思ってた」 「逆に思い上がってると思います。自分を大切にしないとだめです。俺も心配でした」 「ありがとう」  直哉さんは慈しむように微笑んでくれる。俺は直哉さんから見たら子供に見えてるんだろう。確かにあんなにでかい子供がいたら、俺が子供に見えるのはわからないでもない。優しいはずだ。 「俺、子供じゃないです」 「わかってるよ。君は頼れる先輩だって、いつも拓海が褒めてるよ」  空気が甘い。こんなのつらい。 「俺もう出ます」 「ほんとうに? だいぶ眠そうだし、少しでも横になって休んだら? そのまま運転するの危ないよ。いっそ仕事は休んで泊まっていけない?」  直哉さんは甘い顔で俺を見てる。そんなの無理だ。仕事は一日ぐらい休んだってどうってことない。なんなら直哉さんが今日、見つからなければ休もうと思ってた。でも好きな人とこんな空間でふたり夜を過ごすなんて。一緒に寝るなんて拷問だ。また襲う。でも、手を出したところで直哉さんは性的欲求とは無縁みたいだし、なにもおこらない。むなしいばっかりだ。 「俺、好きって言いましたよ。小さい子どもじゃないんだから、また襲う」 「まだそんなに好いてくれてたんだ。知花君は十も年上の男を襲いたいの?」 「いっぱいエロいことしたい。横で寝るなんて我慢できないです」ずっとだらだらと甘い直哉さんに腹が立ってきた。「というかホテルに誘うとかさいあく、襲われてもいいってことですよね」 直哉さんの手を引っ張ってぐっとにらむ。これで嫌われてもいい。いっそあきれられて、こいつは駄目だって思われて、俺の希望を起き上がれないくらいめった刺しにしてほしい。 「俺、EDだけど?」 「別にいい。脱いでくれたら直哉さんおかずにいくらでもぬけるから」 「知花君はすごく、奇特でかわいいね」  直哉さんを引っ張った手をにぎりなおされた。

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